第3話 鳴神ツカサ
「ツカサ、夏休みの予定どうするんだよ?」
俺は最後の一人、鳴神ツカサに声をかけた。
今はとりあえず如月の向かいに座っていたくない。
なんで現代日本にいながら死の恐怖を感じなきゃいけないんだ。
こっちは秘密を知った後も誰にも漏らさず我慢してるんだから、本当なら感謝されていいくらいなのに……。
「……ツカサ。とりあえず集まる日にちだけでも……」
返事はなかった。
部屋の奥側に教師用のでかいデスクがあって、そこがいつものツカサのスペースなのだが……。
「……寝てるよ」
デスクの上には数学のノートと問題集、そしてツカサの両足が投げ出されていた。
椅子にふんぞり返るような寝方である。
思春期の女子とは思えない行儀の悪さだ。
「ほら、もう部活始めるぞ。
起き……て……」
そして……俺は思わず足を止めた。
そんなふざけた姿勢で寝てるから……。
スカートの中がばっちりと見えてしまっている。
「……」
な、なるほど、ね。
ピンクがかった白、ね。
俺は……なるべく自然な感じで目線を天井へと移した。
こういう時に慌てたり喜んだりするのは、ガキの証拠である。
クラスのやつらなんて、階段でだれだれのパンツが見えたっていう、そんなくだらない話だけで休み時間の間ずっとバカ騒ぎしているが、冷静に対処してこそ、本当の男なのだ。
「ほ、ほら、もう起きろよ。
そろそろ話し合いを……」
なるべく天井を見るようにしながら近づいて、肩をゆすろうとしたその時……。
「ん」
ずいっと手が出てくる。
「は?」
「百二十円」
「……」
ツカサはうっすらと目を開けていた。
「見てたじゃん、さっき。百二十円」
「……」
こわ、こいつ。
寝たふりして金とろうとしてやがる。
「一回気づいた後もずっとチラチラ見てたよね?
あーあ、汚されちゃったなぁー。
私はちょっと足伸ばしてただけなのに、
性欲丸出しの男子に目線で汚されちゃったなぁ」
と、でかめの声でほざく。
他の二人がこっちを振り向くかどうか、ちょうどぎりぎりのボリュームだ。
たぶん……痴漢の冤罪ってこんな状況なんだろう。
なるほど、これじゃあ男の方はなんにもできない。
ただただ……無実の罪で捕まるのを待つだけだ。
……まあ俺の場合は、コイツの言う通りチラチラ見てたんだけど。
しかし、それを正直に告白する勇気なんてあるはずもなく……。
「み、見てねぇし! 全然見てねぇし!」
俺は顔真っ赤にして否定した。
「そ、そもそも興味ないし、お前の下着なんか!
言っとくけどな、中学男子がエロいことばっかり考えてると思うなよ。
そんなの見せられただけで興奮するようなザコと一緒にされるとか心外だわ。
こ、今度からは相手見てやるんだな」
俺は自分でも驚くほど早口になっていた。
「あっ……そーゆうこと言うんだ」
ツカサはつまらなそうな顔で呟いて……。
それから……。
同じ姿勢のまま片足だけを思い切り振り上げた。
「……」
スカートがもはやその役目を果たさないことはおわかりだろう。
裾は大きく上下にはだけ、その間から白い太ももと桃色のパンツが……もう全開だった。
「……」
一秒、二秒、三秒。
ツカサは足を下ろす。
「はい。今度はちゃんと見たでしょ」
な、なるほどね。
こ、この手ならこっちに言い逃れの道はないわけだ。
「はい、百二十円」
「……」
冷静に考えてみれば、こいつに何かをくれてやる論理的、道理的理由は一切ない。
が、しかし……。
なんというか……。
男として、いろいろ負けたような気がしたので……。
俺はカバンからペットボトルジュースを出して渡してやった。
さすがにこれで十分だろう。
「お前な、そのうち誰かに本気で怒られるぞ」
幼馴染としての忠告だったが、
「平気よ、平気。
だって……ザコ相手にしかやらないもん。
アンタみたいなね」
「……」
鳴神ツカサ。幼稚園のころからの幼馴染だ。
これでも幼児時代は明るく優しい性格だったのに、どこでどう間違えたのか、
嘘みたいに自堕落で無気力な性格になってしまった。
中二でこれなのである。
先が思いやられて仕方がない。
ちなみに趣味は「食うことと寝ること」。
一年の四月、ホームルームで自己紹介をする時に真顔でそう言い放ちクラス中を唖然とさせた。そういう場面では、趣味なんて一切なくても「読書」とか「映画鑑賞」とかそれっぽいことを言っておくのがセオリーだが、こいつはドストレートに自分の本心をぶちまけたのである。
後で当時の担任に怒られていたが、こいつの性格からしてたぶんなんとも思ってないだろう。
それにしても……神はどこかで何かを間違えたらしい。
クソみたいな性格を搭載してるくせに、ボディの方はどこまでも一級品だ。
顔はノーメイクでテレビに出しても問題ないぐらいだし、身長は女子にしては高く、俺とほとんど変わらない。
すらっとしているが、身体の芯にはしっかり筋肉がついていて、ド底辺の文化部でぐーたらしてるくせに、見ただけで運動神経が良いとわかる。
それにしても、圧巻なのは……胸だ。
男の俺には、どういう原理でここに脂肪がつくのかは想像もできないが、その大きさはもう……女子中学生という存在が到達できる極限レベルに達している。
一本だけ垂らすタイプのおさげ髪は現代ではシンプルすぎる髪型だが、素の外見が良いからか、十分に華やかさがあった。
たぶんどっかの運動部で本気で頑張れば関東大会ぐらいはいけるんじゃないかと俺は踏んでいるが……。
こいつが金にもならないことで頑張るなんて、天変地異が起きてもありえないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます