第41話 先輩、胸の奥がもじょもじょする。
次の日の昼休み、中庭。
瞑想……してもいいから、犬でも猫でも構わないから話が通じる先輩でいてください!との願いが届いたのか、通常運転の蘭にホッとした颯太。
「じゃあ、お弁当を食べた後に稽古のお話しましょうか」
「うむ!楽しみだ!」
「いや、先輩……顔近いです!近いですってば」
「蘭だっ!!」
腹に力を込めて言い放った後、キラキラと瞳を輝かせて颯太の顔を覗き込む蘭は、ぐいぐい、むにむに、ぐりぐり、と颯太に体を預けまくっている。
「もう!これじゃご飯が食べれないじゃないですか!」
「そうなのか?しばし待て」
肩を颯太にもたせ掛けたまま、膝にのせていたお弁当をそうっと開けた蘭は、これまた瞳を輝かせた。
「颯太の弁当は見るだけで心が躍る、な。ほれ、口を開けるがよい。あー、とな」
「できませんよっ!」
「早くせんと、私の順番がやってこない。ほら、あーん」
「え、えうう……」
蘭によって綺麗に分けられた厚焼き玉子に、はむっ!とかぶりついた颯太。
満足そうな蘭は、自分もすぐに、おなじように玉子焼きを口にしている。
(か、間接キス……)
あまりの恥ずかしさに、ばっ!と口を押さえた颯太が周りを見やる。
にっまにまにま、にまにま、にまにま、と笑ってみていた那佳と笹の葉が、蘭のあーんに顔を手で覆い、目いっぱい開けた指の隙間から堂々とガン見している。
まあ、奥様。近頃の若者は、大胆ですわね。
あらあら、お熱い事。
うふふ、うふふふ。
ぐふぐふ、ぐへへ。
にっまにまにま、にっまにまにま。
顔を赤らめた颯太は、ふにゅにゅにゅ!と身悶えする。
「颯太、次だ。口を開けぬか」
「は、はい」
蘭の声につられて、よそ見をしながら口を開ける。
ふにゅ。
おかずが口に入った瞬間、蘭と颯太の鼻がくっついた。
「え?……うっわああああ?!!!」
おかずが無ければ確実に唇が触れる距離までニアミスしていた蘭に驚き、颯太はベンチから転げ落ちた。
むぐむぐ、ごっくん。
「む?タコ足のウインナーは好きでなかったか?自分で作った弁当だろうに」
「き、キスするところだったじゃないですか!!」
「……?唇が触れてはおらんぞ?」
「何でそこで不思議そうな顔ができるんですかっ!」
いいなぁ、とまた指を咥えて眺める那佳の肩を、笹の葉がつついた。
「の葉……それは何のマネですか?」
「ん」
皮を剥いたバナナを咥えて、口を突きだす笹の葉。
那佳は無言でバナナを押し込んだ。
●
(いつも楽しそうだなぁ……)
豆娘が豆じゃなくて私をイジるー。豆じゃなくてー。いつもの豆じゃなくてー。
言い方が何かイヤらしいんですよ!こ、この尻娘っ!
がっぷり四つで手と手を組み合わせる那佳と笹の葉を横目に見ながら弁当を食べ終え、ひと息ついた蘭と颯太。
「……という訳なんですよ。例えば自分がその状況に置かれていたら……と置き換えれば、台詞に感情が、表情が出るんじゃないかって遠鳴さんが言ってました」
「なるほど、な。例えるなら、殺陣の中で模造刀を
「違います」
サラリとツッコミを入れた颯太に、蘭が首を捻る。
「む、違うのか」
「今の流れでどうしてそう思ったのかが不思議ですよ!昼間っから何を言ってるんですか?!」
叫ぶ颯太に、むにゅ!と上半身を寄せて見上げた蘭。
「昼でなければ、颯太の名刀を拝めるのか?そもそも、右京院の令嬢にはお披露目したと聞いたが、
「もじょもじょって何ですか!お披露目してませんよぉ!(※32話。性表現レイティング注意)」
「確か、こうしている内にそそり立ったのではなかったか?」
「や、やめてくださいよ!胸をどこに押し付けようとしてるんですか?!」
腰にしがみつこうとする蘭の肩を必死に押し返す颯太。
「
「右京さんひどいですよおおおおお!」
片手で口を押さえてニマニマと笑う右京院
実際の所、颯太で羽遊良が笑うのは、
「私が一番弟子なのだぞ!納得がいかぬ!早く名刀を
「先輩、実はわかってますよね?!僕をからかってるいるんでしょう!」
「蘭だ!うむ、無論だ!それくらいの事は、昨日綾乃から聞いて知っている!」
「皇城せんぱーい?!」
●
ジタバタジタバタ、どったんばったん!
眼前の光景に、顔を赤らめながら内股でモジモジとうつ向く那佳。
手で筒を形づくり、口をあんぐりと開けて顎を押さえて悶絶する笹の葉だったが。
(いいなあいいなあいいなあ……)
目の前でバカップルのようにはしゃぐ二人をそんな気持ちで見つめる二人だった。
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