第40話 颯太、秘策破れたり。
お昼休み。
昨日の帰り道に
(遠鳴さんが言ってた事はもの凄く納得できた。『そのお話なら……例えば、蘭様の大切な人に危機が……早く傍に行きたい!邪魔だ!とかイメージできたらどうかな』って。それなら!台詞にも気持ちが乗るよねきっと!)
中庭についた颯太は顔を上気させながらベンチに座り、あれやこれやと作戦を練っていく。
(一週間ちょっとしか時間はないけど、蘭先輩の事だから、一つコツを掴めばどんどんと身に着けていく可能性は高いよね!師匠とか言われて、全然役に立てなかったけど、これなら!後はどうやって説明するか、かな……)
ざっ!
中庭の地面を踏みしめる音。
蘭が、颯太の目の前に立った。
「あ!蘭先輩!今日の練習で試してみたい事があるんですよ!遠鳴さんに教えて……もらっ……?」
話しかける颯太の眼前で、蘭がぽすり、と地面に腰を落とし、正座した。
突拍子のない蘭の行動に慣れてはいても、颯太は首を傾げざるを得ない。
「ど、どうしたんです?お弁当を食べて、今日も台詞の練習しませんか?遠鳴さんからヒントを教わったので、僕も頑張りますから!」
顔を紅潮させながら、地面に座り込んだ蘭に手を伸ばす颯太。
「わふっ」
「……えっ?」
そして、蘭の発した鳴き声に目を丸くする。
「瞑想はダメってあれだけ言ったじゃないですかー!!!あ!あれですよね!実はお芝居してるんですよね?!」
「あおーん!」
「……」
崩れ落ちた颯太の頭に、ぽふん!とお手をする蘭。
もはや中庭劇場と化した、蘭と颯太との寸劇である。
今日は、またまた胸キュンしちゃう感じ?
ハラハラどっきどきのいちゃいちゃゲームとかかも!
熱血演劇部、もうそろそろ何かが起きる気もするね。
ほんそれ!
口いっぱいにお菓子を頬張って、いつものベンチから颯太の特等席を見守る笹の葉と那佳はハラハラわくわく。
そこで那佳の耳に口を寄せた笹の葉。
(小芝居をしているー、に那佳の初モノを掛けるー)
(そうかしら?私は瞑想……うええ?!何で私の秘密知ってる……んですか!!)
(匂いー)
(嘘ですよね?!嘘って言いなさい!!ちょっと!)
こちらもこちらで、通常運転の中庭劇場である。
●
「もう……。何でこの、レベルアップチャンスの時に妄想するんですか」
もぐもぐもぐ。
「わふっ!」
「わふ!じゃないですよ……何か癒やされるけど」
最近定番化しつつある、蘭瞑想→蘭動物化にガックリと
声を掛けても、箸を取ろうとせずにベンチで正座をしている蘭に、颯太が一口ずつ食べさせている状態だった。
「きゅーん……」
「あ!いえ!怒ってる訳じゃないですよ?しょうがないですよね。集中したい時ってありますもんね」
「わふー」
あーん。
もぐもぐもぐ。
いやあれ、普通に意志の疎通してるでしょ!と目を点にする那佳と笹の葉をよそに、颯太が作ったお弁当を分け合っている。
「今日は遠鳴さんから、感情を籠めた台詞を言えるようになるかもしれないヒントを貰ってきたんですよ。瞑想状態じゃ無理だから明日にしましょうか」
「……くーん?」
もぐもぐごっくん!とご飯とおかずを平らげていく蘭を嬉しそうに見ながら、優しく語り掛ける颯太。
「いいんですよ。蘭先輩の自由さには慣れました。僕、それに山育ちじゃないですか。逆に犬とか猫ってあまり見た事がなかったんですよ。飼いたくなっちゃいますね」
「わふっ!!あおーん!」
「しっぽ振ってる感じなのかな?あ!で、でも……胸が揺れてますからお尻側だけにしましょう!うう……」
「わふ?」
驚きを通り越して、梅雨の合間の眩しい日差しに包まれながら、ほのぼのした蘭と颯太のお昼風景に、肩を寄せ合ってうつらうつらとし始めた
(気持ちー。このまま寝たいー……任務は任せたー)
(ですねー……根性叩きなおして、あげますね……)
(豆女ー……)
(尻娘ー………)
がばっ!
無言で身体を起こし、手をぐぐぐ!と組み合う那佳と笹の葉を横目に、颯太が蘭に話しかけた。
蘭は膝に頭を乗せて、颯太を嬉しそうに見上げている。
「うう……無邪気に頭を乗せてくるから思わず膝枕しちゃったよ……入院中に僕が泣いてる時にひざ枕してもらったから、まあいいんだけど恥ずかしい……」
「わふー……」
颯太の言葉に、気持ちよさげに目を閉じる蘭。
「めちゃめちゃ気持ちよさそうですね。もうすぐお昼休み終わりですよー。僕も眠くなってきちゃいました……」
「くふーん……」
●
キーンコーン、カーンコーン。
昼休み終了のチャイムが鳴り響いた。
「………………っ!しまった!寝ちゃってた!先輩!先輩!お昼休み終わりですよ!起きてください!」
「……ん、ふー」
「あ!あれ?犬のまま?!えっ?!このパターンは初めてだ!先輩!授業始まっちゃいますよー!」
「蘭だー……」
「どっちなんですか!ちょっとー!」
いまだにマウント争いを続ける那佳と笹の葉に気付く事なく、新たなパターンに慌てる颯太であった。
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