第30話 先輩、にゃあと鳴く。そして立ち上がる颯太④
「ううう……うわ!僕のバカー!語っちゃったよ!語っちゃったよ!」
顔を手で隠した颯太。
ぐぐぐぅと自分の顔を挟み込んで悶絶している。
が。
颯太の胸に、頬をぽすり、と落とした蘭は呟いた。
「颯太も、武芸の嗜みがあったのだな。……この私が見抜けなかった」
「うわー……えっ?……あ。あの、僕のは武芸じゃないです。もし何かの型っぽく見えたのなら、母の見よう見まねです。手ほどきしてもらえませんでしたし」
「…………」
無言で聞く蘭の足が、ぱたぱたと動いている。
何となく不機嫌そうな蘭の態度に、颯太は自分で驚くくらいに慌てた。
「あ、あのですね!僕、山育ちじゃないですか。小さい頃、母の技を見て森の中で真似し始めたら、周りにいた動物が全部逃げ出しちゃいまして……動転して泣きながら追いかけたんですけど、どう頑張っても近寄ってくれなくって……」
「……ふふっ」
蘭の肩が揺れた。
じかに伝わる声と振動にドキリとしつつ、笑った蘭に、颯太は続ける。
「そ、それでですね。母に泣きついて、原因は、動物達は技を練習する僕のやる気や気配に動物達が怯えたんじゃないかって言われて。そこから、気配を小さくするように、気配が消せるように頑張ったから、なのかもです。ただ……山で寝てて動物達に踏まれたりすると、僕の存在感が心配になる時もあります」
「……踏まれるのか」
「はい。ひどい時はウサギの家族がみんな僕を踏んだ後に気付いて、ころころと転がっていったり……」
「……転がるのか」
「はい」
「ふ。ふふっ…………」
蘭は颯太のパジャマを握りしめ、肩を震わせて笑い続けている。
機嫌を直してくれるかも、と内心ほっとした颯太。
すると。
暫くして笑いが収まった蘭が、鳴いた。
「にゃあ」
そして、パジャマを握りしめたまま、颯太の胸に顔をこすりつける。
「んにゃーあ」
「も、もう!猫の真似したって騙されません!起きて下さいよ……」
蘭がずっとしがみついているという事実に改めて気付き、慌てて言い募る颯太。
だが、蘭はその言葉が聞こえていないかのように顔を起こして、呟いた。
「颯太、先ほどは……私の傍で後輩として共に在りたい、と言ったな」
「……ひゃ?!……はい、言いました」
蘭のまっすぐな瞳を見た颯太は、ありのままに言葉を紡ぐ。
「そうか。では一番弟子の座を確固たるものにする為に、私は
そう言って、頬を緩ませた蘭。
「だから、師匠とかそういうのなしで……普通に先輩後輩でいいじゃないですか。あ、あと!皇城先輩のアドバイスに乗っかって、あんまりベタベタとくっつかないでくださいね!」
颯太の抗議に、蘭は唇を尖らせた。
「私は一番弟子として、颯太の息遣いや一挙手一動をこの目に収めるべく奮闘しているのだが、駄目なのか」
「引っ付かなくてもセリフの練習はできますよ……」
「そうか。颯太がそのような心持ちであれば、今も善処せねばならぬな」
蘭が、少しだけ上半身を起こした。
が。
再度颯太の胸に顔を
困り顔で、微笑んだ。
「離れがたい、な」
初めて見る蘭の表情に息が詰まる颯太。
そして。
躊躇いがちに、蘭の背中にそっと両手を伸ばした颯太。
その感触に、ふるり、と震えた蘭が瞠目する。
「もう少し、だけですよ?」
「…………!!」
颯太のその言葉に。
蘭はまた、ぽすり、と胸に顔を
「本当に、あとちょっとだけですよ?」
「にゃあ」
「猫になっても本当に本当に、あとちょっとだけですよ?」
「うなー」
実は、もう少しこのままでいたいと思ってしまったのは颯太の方だったが、言ってしまうと蘭が、ふいっ、と離れてしまいそうで何も言えなくなった颯太。
●
そうして、そこから二人が眠りに落ちるまで、さほどの時間はかからなかった。
聞き耳を立てている少女が、いた事も知らずに。
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