第29話 先輩、にゃあと鳴く。そして立ち上がる颯太③



「もー。犬に、大人びて……ちょっとえっ……んんっ。どきどきさせるお姉さん、猫……蘭先輩、瞑想しない方がいいんじゃないかな」


 蘭は膝枕に仰向けになり、颯太の手を猫じゃらし代わりにして遊んでいる。


「でも、ここ迄るんだからすごいなあ。……頭とか撫でたら、どんな反応するんだろう。うわ、どうしよどうしよ……触ってみたい……よ、よし」


 颯太はゆっくりと、蘭の頭に手を近づけていく。


「にゃあん」


 蘭は颯太の手をじっと見つめたまま、鳴いた。


「ちょっとだけ、頭撫でてもいいですか?」

「にゃあん」

「……えい」


 そっと蘭に頭に手を置いた颯太は、さらさら、と撫でてみた。蘭は目を細めて、気持ちよさそうにしている。


「本当、猫っぽい!え?僕は夢でも見てるの?訳わかんなくなってきた!」


 慌てて手を引っ込めた颯太。


 すると。


「なあーん……なあーん」


 蘭は颯太の顔を見つめて、別の声て鳴き始めた。


「え?これって催促、とか?もうこれ、お祓いした方がいいレベルじゃ?!」


 わたわたと慌て始めて、スマホに手を伸ばした颯太。


 すると。


 蘭がするりと動いて、颯太に飛び掛かった。


「わー?!」


 



「び、びっくりした!何を?!」


 仰向けになった颯太は、首だけを起こした。

 蘭が腹に顎を乗せて、足をパタパタと動かしている。


「なあーん」

「……まさか、頭、撫でろって事なんですか?」


 その呟きには黙ったまま、蘭はきらきらとした目で颯太を見つめている。


「……」


 颯太は無言で蘭の髪を撫でた。


 ぽてり、と頬を颯太の腹に乗せ、嬉しそうに目を閉じている蘭。足はパタパタと動いたままだ。


 が。


 颯太は非常に焦っていた。

 

「……どうしよう。撫でるのはいいんだけど、可愛いんだけど……体勢が……」


 颯太のヘソのあたりに、蘭の胸が乗っている。

 しかも蘭が足を動かす度に、ふわふわの感触が伝わってきている。


「お姉ちゃんも似たようなことしてきたから慣れてるけど……恥ずかしいや。何とか抜け出さないと」


 ぴくり。


 その言葉に反応したかのように、蘭が動き始めた。


 ずりずり、と蘭の体が這い上がり始めたのだ。

 薄いパジャマ越しに伝わる柔らかな感触に慌てる颯太。


「もう!いい加減、正気になってくださいよ!先輩!」




にゃんにゃ!」




 その言葉に、びしり、と固まった颯太。




「な!な!な?!まさか!」

「ぬ?蘭だにゃ!違う、蘭だ!颯太、私とは乳繰り合おうとせぬのに、姉とは乳繰り合うのか。聞き捨てならん」


 颯太の胸の上で、ぷっくぅ!と頬を膨らます蘭。


「蘭先輩の時と同じように逃げ回ってたんですよ!」

「む、そうか。ならばまあ、良かろう」


 蘭は颯太の胸にぐりぐり、と頭を押し付けて首を振る。


「蘭先輩!くすぐったいし、あの!上半身を離してください!というか、いつから正気だったんですか?!」

「む?『蘭先輩はどれも、蘭先輩なんですね』の言葉を聞いた辺りだな。そして、猫になりたくなったのだ」

「全部だ……!!」


 颯太は真っ赤になった顔を覆って、天井を仰いだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る