第5話 「事件だ事件だ」

 語り部さんのお話が終わった頃に、学童クラブの先生方が何かにわか不穏ふおん(※1)な動きをしているのに僕は気づく。

 

 何か慌てている。先生達が、クラブの部屋と玄関フロアの方を行ったり来たりしている。しばらくして、田中先生が前に出て言った。



 「みなさ〜ん!じゃ、おやつにしますよ〜。えっと!お菓子は変更です。ごめんね〜手違いがあってね〜。今日は桜餅は、無し!」


 「え〜〜!」

 高橋やよいちゃんが、ショックの声を上げた。やよいちゃんの思いは多数派の様で、児童の中に動揺が広がるのがわかった。


 「やったあ〜!私は、いっりまっせ〜ん!」

 杉町タオちゃんが歓喜していた。


 落胆しながら皆がおもちゃの片付けを始める。テーブルに座り、オヤツタイムになる。かわりのオヤツを、ムロちゃんがバタバタと用意していた。語り部さんもテーブルに座りオヤツを食べて交流するのである。


 

 僕は直様すぐさま立ち上がると、仲良しの石巻先生にコソッと理由を聞きに行く。


 「えっ。理由?玲君、ナイショだよ。君は、騒がないだろうから、言うけどね、確かに届いたはずの桜餅40個が無くなっちゃったんだよ。しかも、お菓子のトレイはあるのに、中身だけがね」


 僕は、静かに、考え始めたのである。






※1【不穏】

形勢・世相などがおだやかでないこと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る