第6話 「謎解き開始」

 夕方になり、保護者のお迎えが次々に来ると、次第に静けさが訪れはじめる。まばらになった学童クラブの前方テーブル周辺に、子どもたちが集められている。先生も目が届くし、お迎えに備えるのである。


 田中クラブ長、ムロちゃん、若いユッキーこと雪乃先生、そして石巻先生が揃う。

 

 美幸ちゃん、ヒロ君、三年生のリーダー格の貴一きいち君を含む何人かが残っていた。


 ちなみに、貴一君は、何故か今日は、児童クラブに来る時間が遅く、語り部さんがお話している頃に遅れてクラブに合流している。

 

 僕は、遂に動き出し、田中先生に話しかける。


 「あのさ〜、僕、何で桜餅なくなったかわかるかも」

 

 「えっ、ほんと?先生困っちゃった。なんて会社に報告しようかなって」

 真面目な田中先生は落ち込んでいるように見えた。


 「先生、じゃあ、まず、桜餅が届いたところからの、玄関入口の人の出入りを順番に教えてよ」

 

 「そうねえ。子供に話す事じゃないんだけど」


 「桜餅は、私が受け取ったんだよ」

 意外と融通ゆうずうの効く、ムロちゃんが即座に割って答えた。


 ムロちゃんがお菓子を受け取った玄関は、プレイルームから、横開きのドアを隔てての広く長い玄関フロアの端っこにある。プレイルームからの出入りはあるが、玄関は、一定の時間を過ぎると、むしろ、人目につかないのだ。


 ドタバタと、玄関から、ムロちゃんがトレーを持ってくる。


 「ほら、この黄色いフタ付きのトレーが2つね。空でしょ?お菓子は、永井さんが玄関すぐの壁際かべぎわに並べてくれたの」

 

 「じゃ、ムロちゃんは、トレーを持たなかったんだね。届いた時に、フタを開けて中をあるか確認したの?」


 「確かにしてないよ。田中先生、すいませんでした」


 「いいえ〜。空のトレーが届く訳ないんだもの。あとは、永井菓子店の後に、語り部さんが来たくらいよね」


 「他には、ないかなあ」

 何か僕は、に落ちない。

  


 「あのう、白猫ヤマトさんからオヤツ用に注文してるお菓子が届きました」ユッキーが遠慮がちに言う。

 

 「ユッキーは、白猫ヤマトさんが外に出ていくとこまで見たの?」


 「見てないかも…。博文君が、『ユッキー先生、桃介君が、また居なくなりました』って玄関に来て言うからね、慌てて児童館のある3階を探しに言ったから」


 「ねえ、ヒロ君はその後どうしたの?」


 「僕は、れい君の近くに居たよね、先生が見に行ってくれたから」


 「あ、児童館と言えば、児童館の東山さんが来たわ。やっぱり語り部さんが話している時間よね。ゴミを集めにくるの。学童のゴミを置いておくと、一緒に集めてくださるの」  

 田中先生がハタと思い出す。


 「れい、タオが怪しいぞ。アイツ俺が来たときに、学童のゴミ袋をいじってたぜ。ゴミ袋に入れちゃったんじゃね?やりかねないなアイツなら。桜餅を食べれなくて喜んでいたじゃんか」

 3年生の貴一君が、重要な証言をする。


 「でも、本当に、桜餅はあったのかな?ムロちゃんは確認してないんでしょ?」

 ヒロくんも口をはさむ。


 「桜餅はあったよ。匂いに敏感なさくらちゃんが、『桜餅の葉っぱの匂いする!』って、騒いでたからね。桜ちゃんは、名前が桜だから、余計覚えてるみたい」

 クールな美幸ちゃんは何か浮かない顔で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る