第二十四話 エンカウント ???

気がつけば、辺一帯霧だらけ。


こんな始まり方がほぼ毎回過ぎてもう見慣れた光景と化している。マンネリは早いね。


ただし、違うところが一個だけ。


目の前に、またまた扉がそびえ立っているっていうこと。


「............ 。」


もう思うことなんて一個もない。


慣れちゃったんだもん。シカタナイネ。


俺は感情がなくなりそうになりつつこの扉に手をかける。


「............。」


ガチャガチャ


「............。」



ガチャガチャ



「............。」




ガチャガチャ




....................................





ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ......





一時間後(位)







ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ






「はぁはぁはぁ。」


あ、開かねぇぇぇ!

何だコイツゥゥゥ!横に引いても前に押しても開かないんだけど!?


「やってられるかちくしょー!」


思い通りにならない憤りが限界突破した。

やれることがなくなったので、俺はその扉を蹴った─


ガッシァァァァン


「へ?」


─瞬間、ぶっ飛んだ。


数メートル先まで一直線。


「いやいやいや、え?何で?」


俺の身に起きた何か。その何かを教えてくれるやつは誰もいない。


誰かぁ、教えて!


うんだっれもいねぇや!





「思いの外、早く来た......か。」


即座に回し蹴りをし、華麗にソイツにかわされる。間髪いれずに上中下の蹴りをかますがそれすら片手で去なされていく。


その場から即座に飛び退いて二歩半の距離を取ってから今度は勢いをつけて殴る。


それら全てが見えているのか、ソイツはヒラリヒラリと、軽くかわしていく。


バックステップ、ゼロステップ、低姿勢で突進、正拳突き、回し蹴り。


無理な体勢から無理やり回し蹴りに繋げたことでようやくソイツに攻撃が当たる。


だが、手応えが一つもねぇ......!


中身の無い殻を蹴ってるみたいに、重い一撃を与えた、あの足に伝わる振動が無い。ただただ硬いモノに止められた感触が伝わる。


「痛っつ!」


硬すぎる。アイツ、脳震盪一つ起こしてないってどんな身体してやがる!?


というか、コイツの存在に気付かなかった。誰だコイツ?


一人の男が今も俺の攻撃をのらりくらりと最低限の動きで避け続けている。


見た目は二十歳前半。


ずいぶんと若そうなのに、放たれた声は妙に大人びていた。


「クッ...!」


激しい動きで身体が火照りだし、汗が流れ、自分でも分かる程に動きが鈍り始めていた。それでも動きだけは止めない。


俺の全てをいとも容易くかわし、受け止め、去なしていくソイツは何故か反撃してこない。


まさか、敵対していない?味方なのか?


「シッ」


「っぐぅ!?」


腹部に強烈な鈍痛が走る。


っあ.........俺は、一体何をされた?

痛む腹を押さえながらソイツを見ると、ソイツの片手が手刀の形になっていた。


手刀で出していい威力じゃねぇだろ、これ。

ジンジンと、内側から続く痛みに顔をしかめながら相手を見据える。


嫌な汗が吹き出す。


骨はイカれて無いだろうが、内蔵に対しての衝撃がよくなかった。若干目が眩み、吐き気により胃液が上がってくるのが分かる。


どうにか吐くのを止めるが嗚咽は止められない。


「ふむ、中々血気盛んな奴だな。」


はぁ!?何言ってやがるんだコイツ!?


「突然現れたクセに何言ってやがるっ!てか居るなら名乗り出ろよ!敵だと思うだろ!」


「さりとて、殴る必要は無かろう?」


「こっちは色々あって敏感なんだよ!敵とかに!悪いナァッ!」


単調な動きになっているのは分かってる!


分かってるけど、何であれから一発も当たらねぇんだよっ!


くっ、らちあかねぇな!だが、殴りが当たらないんだったら別の手段とるまで!


即座に後ろ走りをしてソイツから距離を置き動く気配が無いのを確認してから始める。


応えろ俺の能力!


両の手の平を合わせてイメージを込める。

今は腕が使い物にならねぇから刀とかリーチの長いモノより負担のかからないダガー辺りがマストか.......!


だが、いつまで経っても蒼い光は出てこない。


「はぁ!?」


「何を驚くことがある?」


「っ、応える義理はぁ!」


一瞬で離した距離を詰めて蹴りを放ってきやがった。ってか、コイツの蹴り重すぎるだろっ!?


「ねぇよ!」


蹴りを受け止めた腕から未だにビリビリとした痛みを感じるが無視だ、無視。


............出来ねぇんだよなぁ!これがさぁ!

腹部にもう一発やられる前に何とか、何とか防げたけどさぁ、明らか攻撃力に差がありすぎんだろ?向こうの骨鉄だろ?鉄!カルシウムが主成分の骨が基盤の人間に太刀打ちできる奴じゃねぇ!


意識を保ち考えをまとめながら不恰好な構えをとっていく。小4ぐらいの時に空手やってたんだ、様々にはならねぇがある程度の型はできる。


まぁ、今は魅せる空手ではないから俺が習った型が使えるかは知らんが、威嚇になれば十分。


「ふむ、成ってないな。」


あ、だめだぁ。クッソ舐められましたわ。


「生憎とこっちは戦いとは無関係な平穏でぬるま湯に浸かっているような生活送ってきたんでなぁ、そりゃあ不恰好で碌なもんじゃねぇよ。」


ソイツを中心に円を描くように場所を移していく。相も変わらずソイツは一歩も動こうとしない。ずっと目だけが俺のことを追っている。


今更ながらコイツの特徴を詳しく調べてみる。


上下共に近代っぽい服装をしている。少し大きめなズボンにフード付きのコート。フードを深く被っているために顔が全く見えないが、怪しく光るその眼光のお陰で目が何処を向いているかは何となく分かる。


だからって戦闘が有利になるとか、敵の行動を予測できるとか、そんな訳じゃないけどな。


「どうした、かかってこないのか?」


「攻めあぐねてんだよ、見たらわかるだろ?」


「ふん、であればお前のお得意の武器を出せばいいであろう?」


「出せたらとっくに出してんだよ!.......察しろ!」


コイツ馬鹿か?もしかして。




............いや、待て。今コイツ何つった?


.........だって?


「おい、どうして俺の能力について知っている?」


「今はそのようなことは関係無いであろう?」


「いいから応えろっ!」


即座に距離を詰め今度は蹴りを中心に連撃をくらわせようと試みる。が、


クソッ、まじて当たんねぇ!


ざけんな!って言いたいけど、これまでがこれまでだったからなぁ。



............ いや、今はそんなことどうでもいい。


コイツはどうして知っている?まさか、コイツがパソコンヤローか?それとも、何かしら情報を持っている奴か?


どちらにせよ、聞くことが増えた。


「まぁじでこんな大事な場面で何で発動しねぇの!?」


「御託はいい、かかってこい。」


「多分その台詞言うの本来はこっち!」


かかってこいって言われてバカ正直に向かう奴がいるかっての。


ふー、ふー、ふぅ 一呼吸


カウンターで行ったほうがいいな。

こっちからガンガン攻めてくよりも体力は保てるし、お互いこの微妙な距離感を保てるなら回復もできるかもしれない。


相も変わらずジンジンとした痛みのある腕は拳を握れたところで使い物にならないだろう。


足はまだマシだし多少痛くても威力は出る。だが如何せんリーチがなぁ。こういうとき足長族に生まれたかったなぁなんていう理想を抱いてしまう。


「どうした?来ないのか?」


「............ 」


そろそろ痺れを切らしそうだな。


さてさて二分一だ。当てられるか、避けるか。さぁさぁ、命の懸かったギャンブルのお時間だ。


「であるならば此方から行くぞ?─」

「─待ってましたぁ!」


バカ速ぇなぁ、おい。

瞬き一つでまぁまぁ離れてた距離が無くなり、文字通り目の前には拳を振るおうとするソイツがいる。


瞬間、世界から色が無くがモノトーンになった。

まるでアニメのシーンの様に世界がスローになる。なんで?などと言う疑問は捨てろ。今はこれを見切ることだけに集中。


当たれば多分死にはしないけど死ぬほどの痛みを受けるんだろうな。拳はこのスローの世界でも確かに俺の顔面を捉えている。


思考だけが加速していく、なんて言うつもりはないが、この状況をどうするという考えだけがぐるぐると空回りしていく。


あらゆる解決策を思いつきはするが、どれもこれも現実的じゃない。向こうがゆっくりなら此方も同じ。避けるなんてそもそもの身体能力から考えて不可能と断定したほうがいい。


相手さんよりも速くカウンターを決めるなんて尚更だろう。だからと言ってこのまま受けるか?と問われれば間違いなく嫌だと言う。



ならば、相殺ならどうだろう。



現実的じゃないが、他のものに比べればいくらかマシだ。ケガや痛みを避けられないのは変わらないがただ一方的にダメージを負うことはない、と思いたい。


...........顔面に蹴り入れで一つもダメージ喰らってなかったのに行けるか?


........いや、やるんだよ!






1秒未満の刹那






俺の顔面を的確に狙うソイツの拳と





スローになった世界を通して漸く拳を捉えた俺のノロマな行動と






それらが次の瞬間にぶつかり合う





その時、崩れてはいけない何が、音も無しに崩壊した。





「アガァっ!?」


い、いて、ぇっ?




突如襲い来る頭痛でも発生源は顔面じゃない後頭部だだかどうして俺は後頭部に痛みを感じている?コイツの仕業か?まずい立て直さないと今度こそやられる速く立ち上がれ俺でないと死─


。」


「っぁ」


更に首に強烈な衝撃が走ると共に目の前がぼやけ、徐々に暗転していく。


「ぁっ、ぇ..........」


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」


何、呟いてんだ.........


「~~~~~~~~~~~~~~だ~~~~~~ら、」


はっきり、喋れ、よ


「─────呑まれるな」



ぼやけた世界が完全に暗転し、意識はやがて浮上していく。

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ジオ異世界幻想伝 時亜 迅 @ToaJinco18

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