第二十三話 尋問中(捕食されそうです。)

唸り声がもう凄いのなんの。


まぁ、無理もないんだけどさ?俺はあえてそのことについては言っていなかったし、ゴブリン倒しましたぁなんて言ったらどうなる?討伐者か?とか言われるかもしれないだろ?


人里なら問題ないよ。でもさぁ?ここ狼の村だよ?実質モンスターの村なんだよ..........死ぬ未来しか見えないじゃん。


だが、鎌風さんはそれを見抜いたのだろう。嘘ついたのは間違いなく俺だ、甘んじてこの視線を、顔面を受け入れるしかない。


んー、しかしなぁ、この状況でなぁ、まともに話せるわけないんだよなぁ。


「君のその体の傷、それはゴブリンとの戦いで受けたものだな?この森を歩き回るだけでそのような傷が付くはずがない..........ましてや、君は左腕の傷.......治癒に秀でた者の見立てではほぼ同時刻に付けられたものから血が出て死にそうだったのだから、戦闘以外で受けた傷とは考えにくい。そして私の考えを確実なものにしたのは、君の傷痕から出た微かな魔法の反応だ。君を治している間に、傷に特殊魔法刻印付きの武器の魔法が付与されていることが分かった。効果は傷の自然治癒の無効。........君も聞いていて分かるだろう?ただ歩いているだけで付く効果じゃないのだよ、それは。しかし、特殊魔法刻印付きの武器は、人間が作り出しているものだ。ならば、君が他の人間に襲われていたと考えるのが自然、そういう風に君は考えるだろう。」


「......................。」


や、やべぇ!なんも分からん!


と、とくしゅまほうナンタラカンタラとは何ぞ?人が作ってるもんなの!?じゃ何であいつ持ってたんすか!?


聞きてぇのはこっちなのに何で向こうは俺がさも分かっている風に解釈してんの!?俺こことは違う所から来たって言ったじゃん!.........あ、そういや俺異世界から来たって言ってねぇや。納得。


だがな、それでもだよ!どうしてそう確信できる!もう眼科行ってきてください!貴方の目節穴どころじゃないですよ!


「だがな、発見したのだよ、ゴブリンの死体を。今朝この森を徘徊した際にあった、特殊魔法刻印付きの短剣を握ったまま、胴体と首が見事に切断されていた死体がな。」


「...........そうですか。」


「牙狼の森に居るゴブリンは、過酷な環境でも生きれるように独自に進化している。そこらのゴブリンとは訳が違う。同種族の上位種であるゴブリンキング、ゴブリンクイーン、ゴブリンナイト、アサシンゴブリン、ゴブリンマジシャンをも凌ぐ強さを持つものもいるぐらいだ。人間である君たちにはと呼んだ方が分かりやすいかな?君が出会ったのも、ゴブリンエンペラーに違いない。...........ゴブリンエンペラーは、我らにとっては敵にすらなり得ない。だが、人間では数人でかからねば倒せないほどの強敵であると聞いた。しかし、だ。君はそれを一人で倒してしまった。見ていたのだよ、私の部下が。........答え次第では君を敵と見なさなければならないかもしれない。..........だから問わせてもらう。君は何故このことを隠した?いや.........言わなかったんだ?」


鎌風さんは、俺を睨みながらそう言った。


さっきまで笑っていたあの優しい雰囲気はカケラもない。あったのは、俺に対する警戒心。


睨まれてるだけなのに、ものすごい圧を感じる。


口が乾燥するのを感じる。


「........この傷について聞かれたら答えるつもりでした。」


「ほう?」


「僕自身もあんまり納得できていないんです。ゴブリンとは確かに出会いました。必死に逃げました。途中から戦いもしました。それは自分の意思です。.........でも、倒せたのは偶然です。それに、最後の瞬間だけは、自分でも勝てるはずがないと思っていた相手の攻撃を避けて首を跳ね飛ばした自分のあの動きが、どうしても.......まるで自分じゃない何かが戦っていたかのような、でも記憶はあるんです。」


自分でもびっくりするぐらい、ほぼ見ず知らずの相手に自分の気持ちを話したいた。


普通、知らない人とは喋らず、喋ってもどうしても途中で詰まってしまう。


俺はそんな自分が嫌いだった。


だが、今はどうか。俺は、鎌風さんという人間でもない狼と会話している。


そんな異常な状況なのに、気づけば自分の本音を打ち明けていた。




ああ、そうか....俺は不安だったんだな。


でも、こう正直に話をしたところで、殺されるかもしれないんだよなぁ。



ゴトリ


ふと、何か重いモノが落ちる音がした。


俺の目は自然とその方向を見る。


「脅すような真似をしてしまい、すまなかった。.....君を疑わなければいけなかったのだ。君というイレギュラーな存在は、今まで来たことがない。普段人間との関わりを持たない我らは、多少の調査をする必要があった。だから、私はわざと君に圧をかけた。.......我等は君を受け入れよう。君はゴブリンの話をしなかっただけで、嘘をつく事はなかった。この結晶が、それを物語っている。」


俺が目にしていたそれを、鎌風さんは足で俺の足元へと転がす。


それはとても綺麗で、光が曇る事なく透き通るほど美しい石だった。あ、結晶ね。


「これは?」


「これは真実結晶。又の名を。これは、その場にいるものの嘘を見破ることができる。嘘をつくと瞬く間に光り輝くという特徴があるため、こういう尋問には打ってつけの品だ。」


なるほど。鎌風さんが俺に積極的に質問してきたのはそういう事だったのか。


え、凄く便利じゃない?


「..........気分を害したのならすまない。聞いてて気持ちの良い話ではないだろうからな。複雑な気持ちになるのも分かる。だから、そのような苦虫を噛んだような顔をしないでくれ。私が悪いとは言え、これ以上は罪悪感で押し潰されてしまいそうだ。」


「そ、そうですか。........ははっ」


えっ俺そんな顔してたの?...........意識って怖いね。




「もう日も暮れる。子供たちには君にあまりちょっかいをかけないように言っておく。君は少し寝るといい。君自身気づいていないようだが、君は今酷く疲れているように見える。だから、今はゆっくり休みなさい。」


そう言って鎌風さんは立ち上がり、部屋から出て行った。


一人ぽつんと残される。


あぁ、そっか、ここは自分の知らない世界なんだな。


これは、夢じゃない、現実だ。


身体中の傷が、その痛みが、教えてくれる。


多分向こうの世界には戻れない。あの門を見つけるまでは。


だからこそ、俺は生きる術を身につけなければならない。


もうぐーたら怠惰な自分ではいけないのだ。







頑張ろう。




俺は微睡に沈みそうな意識の中、そう誓った。

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