第3話

「わかった、昼休みにサッカー部の部室へ行ってくるよ。それで首から下に着るパンダの衣装も取ってきて、今日こそ演劇部に返却しておく」


 しつこく叱責しっせきすると、堀辺くんは約束を果たすむねけ合った。


 と、そのとき丁度、担任の先生が教室へ入ってきた。

 それを見て、私は堀辺くんを注意するのを止め、席に着いた。

 そのあいだに堀辺くんはパンダの頭を、自分が座る椅子の下へ押し込んで隠す。

 他のクラスメイトも着席したところで、朝のショートホームルームになった。



 そうして午前中の授業のあとには、昼休みが来る。

 堀辺くんは、パンダの被り物を抱え、そそくさと教室を出ていった。

 今度こそ、着ぐるみを返却しに行ったらしい。


 私は、女の子の友達とお弁当を食べながら、


(それにしても、パンダの被り物をして雨の日に校庭を走るなんて、つくづくおかしな人だよね堀辺くんは……)


 と、改めて彼の奇妙な行動に謎を感じていた。




     ○  ○  ○




 やがて午後の授業も終わり、放課後になった。


 掃除当番を済ませたあと、教室を出て、足早に西校舎へ向かう。

 目指す場所は、生徒会室だ。今日もこれから生徒会活動がある。


 生徒会室の前まで来ると、正面のドアをノックした。

 内側から「どうぞ」と、入室をうながす声が聞こえた。

 失礼します、と断ってから、室内に踏み込む。



「やあ成海さん、今日もよく来てくれたね」


 事務机の前に腰掛けている、三年生の男子――

 生徒会長である燐堂りんどう先輩が、こちらへ声を掛けてきた。


「こんにちは先輩」と挨拶あいさつしながら、私は少しほほが上気するのを自覚した。


 何しろ先輩は、女の子たちのあいだでカッコいいと評判なのだ。

 すらりと背が高くて、定期試験の成績は常に学年一位だった。



「じゃあ早速だけど、仕事に取り掛かろう。昨日までに見て回った部活動の監査結果を、報告書にまとめなきゃいけないからね」


 燐堂先輩は、事務机の上にあるノートPCに電源を入れた。

 それから「台帳を取ってくれないか」と言って、部屋の隅にある棚を指差す。

 私は指示されるまま、監査記録の台帳を棚から取り出すと、先輩に手渡した。

 先輩は台帳を開き、途中で手を止める。綿埃わたぼこりのようなものを、指でまんで取り除いた。ページのあいだにはさまっていたらしい。


「書記と会計の二人は、都合が悪くて今日来れないみたいなんだ。人手が少ないから迷惑を掛けるだろうけど、よろしく頼むよ」

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