第14話 前例無しの改変 Ⅲ

 立ち上がるまでの間に、篠木が修正部に帰って来る。

 片岡と佐々原、そして究明チームリーダーで外村と同期の、糸桜芹いとざくらせりも一緒だ。

 芹は律希を見つけるなり全速力で駆け寄って来た。


「原因、本当に分かったの?」


 芹の追及に律希が経緯を説明する。すると彼女は「あーあ」と落胆するように声を漏らした。


「間接改変か。そんな気もしないでもなかったけど、計算複雑すぎて分からなかったんだよね……」


「究明チームならそうかもしれない、と思って、勝手に頼んで来てしまいました。それはすみません」


「いいよ、いいよ。悔しいけど、これじゃあ、うちで分かるのには、後2時間くらいはかかりそうだった。……歴史学者か。いいとこに目を付けたね」


 芹は納得して、律希のPCから記事を自分のPCに転送する。そして中山に、


「綾ちゃんの部下優秀だね」


「そう言うのは本人に言ってあげて下さい」


「だって……名前、何だっけ?」


「また忘れたんですか。芹さん相変わらず……」


 と軽い話を吹っ掛けた。


「うーん、確か、一ノ原?」


「……一ノ瀬です」


 律希が答えると、芹は「そうだった」と笑った。

 そこで片岡が、


「伝えたい事って言うのはこれだけか?」


 と聞く。

 中山は首を振った。


「さっき外村さんが……」


 恐らくまだ聞いてないだろう、と考えた中山だったが、片岡と芹は同時に、


「もう聞いた」


 と言った。


「外村さんからメールが送られて来て、ちょうど読んでたところで呼ばれたんだよね」


 芹の言葉に中山は言葉を一瞬失くす。

 

 あれだけの話を聞いても、芹の言動が通常営業なのが不思議だった。

 

 そんな中山に、芹は軽い口調で言う。


「まあ、びっくりはしたけどさ。まだ、信じられないし。でも……どうせ綾ちゃんが何とかするでしょう?」


 芹の信頼は本気らしく、中山を見る彼女の視線は、純粋だった。


「……何とか、しますけど」


 言い切るのは怖くて、曖昧な言葉になる。しかし芹にそれを勘付かれる前に、片岡が口を開いた。


「原因の件は分かった。それで、……SIX STORYの方は?」


 片岡の言葉に救われたような気持ちで、中山は紗奈と律希を見る。

 すると紗奈は、すっかり忘れていた、という様子で、あっ、と呟いた。


「すみません、それも説明しないとですね」


 色々な事が一度に起こり過ぎて、兄と会っていたのなど遠くの昔のように思える。それでも紗奈は、兄が言っていた情報を、話し始めた。


「主旨としては、特に明確な心当たりは無い、という話です。でも、一つ気になるとしたら、『ライトストリート』だって、兄が……」


「ライトストリート……湯本美亜ゆもと みあ、だっけ?」


 芹の問いに、紗奈はうなずく。


「社長は湯本さんで、会社の規模も、まだ少し及ばないものの、ほぼSIX STORYと同じです。そのライトストリートとSIX STORYで最近、トラブル的なのがあったらしくて」


 紗奈が簡単に説明する間、熱心に聞いていた芹と片岡だったが、説明が終わると、2人とも納得いかないような微妙な反応だ。


「──そのぐらいでライトストリートなんて大企業が事件改変なんて起こすかな」


 芹が呟くと、片岡も、


「仮に寺西彰の単独犯で、寺西が陽介さんと水無月家の事情を知らなかったのだとしても、これは1人で起こせるような事件じゃ無いよな」


 と考察する。

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