第12話 川野陽介Ⅵ
1人で思い出に浸るように語っていた陽介だったが、紗奈を見て取り繕うように首を振った。
「いや、それだけ。ごめんね、呼び止めちゃって」
「……あっ、うん。全然大丈夫だけど」
ではもう戻っていいのか、と紗奈が陽介を見上げると、彼は「あっ、後一ついい?」と言った。
「その……事件について、もうちょっと詳しく教えてくれない? かなり影響が出そうな改変なのか、って聞いたら、律はうなずいてたけど……実際どんな感じなの?」
「一ノ瀬さんが言った以上のことは私には分からないよ? 大体、気になったならその場で一ノ瀬さんに聞いたらよかったじゃん」
「いや、律じゃ話してくれないだろうなって思ったから」
紗奈は溜息をついて言った。
「私なら言うと思ったの?」
妹が膨れてしまったので、陽介は慌てて言う。
「そう言う訳じゃ無いよ。でも……分かるだろ? 急に事件改変がどうのって言われても、一般人は混乱する。それが自分らに関わってるとか言われたら、もっと困る訳だ」
「……だから何?」
「教えて欲しい。改変の規模がどれだけなのか、時間警察の捜査状況も全部。後は……新しい情報が出てきしだいその都度」
紗奈は兄の要求に、激しく首を振った。
「無理だよ。何? 私にスパイやらせようっていうの?」
「言い方が悪いなぁ。時々陽兄に電話して、話をしてくれればいいっていうだけじゃん」
「それをスパイって言うの!」
紗奈が強く言うと、陽介は1人で呟いた。
「……あーあ、昔は何にでも従ってくれたのになぁ。反抗期?」
「……私、もう23なんだけどな」
相変わらずの子供扱いに、紗奈は呆れる。
「あのね、そこまで言うなら話してあげる。私には何も分からないの」
「え?」
「一ノ瀬さんとかと違って、私は時空学も知らない、ただの新人。だから、何が起きてるのかとかも全然分からない。ただ、先輩たちに言われた事をやってるだけで、大変なのは分かっても、何がどうして大変なのかは分かんないの」
それは別に、兄を騙す為に言った事では無く、紛れもない事実だった。
「だからごめんね。私は何も教えてあげられない」
「でも紗奈……」
「心配しないで。陽兄が何もしなくても、一ノ瀬さんたちが絶対修正してくれるから。今日聞いた事は忘れて、普通に仕事しててね?」
兄は、不服そうにはしながらも「分かったよ」と言った。
「まあでも、何かあったら言えよ。もちろん俺だけじゃ無くて、SIX STORYも協力出来るだろうから」
紗奈はにっこり笑って、
「陽兄ありがとう」
と答える。
「じゃあ、私も戻るから」
紗奈がそう言うと、陽介は慌てて自分の鞄から何かを取り出して、紗奈に渡した。
「前お客さんからもらったお菓子。あげるよ。紗奈好きだろ?」
「またそうやって……」
「別に子供扱いじゃないだろ、これくらい。疲れたら食べな。疲れてる時は甘い物に限る」
素直に受け取って、紗奈はSIX STORYを出た。
兄に会ったせいでなんだか気が抜けてしまったが、後何時間残っているだろうか。紗奈は時計を見て、緩んだ気持ちを引き締めた。
「……後、70時間だ」
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