第12話 川野陽介Ⅴ
そして、寺西彰はライトストリートで大きい仕事を任されるくらいだから、この話を知らないはずが無いと言う。
「警察の件で担当者の俺が恨まれてるってのは違いそうだね」
「……そうですね」
律希は考え込んだ。手掛かりに届いたかと思えば、微妙に逃してしまう。
さながらTSと犯人の追いかけっこのようで、時間警察がどこまでも後手にまわっている事を律希は認識した。
「警察の件が原因だとしても、その矛先は陽介さんでは無く、SIX STORY自体って事か……」
「まず、それが原因かも分からないしね。結局、俺からの決定的な話は無かったな。律、わざわざ来てくれたのに、ごめんな」
律希は首を振って、
「いえ、こちらこそお時間使わせてしまってすみません」
と答える。
「でも、一応調べてみます。ライトストリートも、他の企業も」
「ああ、よろしく」
そう言って、陽介は続けた。
「俺は時空学には詳しく無いけど、律がそっちに居るなら安心だな。修正、頑張れ。早く終わるといいな」
なんてことの無い励ましだったが、律希は一瞬動きを止めた。直ぐ、取り繕うように「はい」と笑顔を見せたが、それは少し無理な笑顔に見えた。
最後にまた挨拶をして、律希と紗奈はSIX STORYを出ようとする。しかし、陽介は小さく手招きをして、紗奈を引き留めた。
律希に先に行って欲しいと伝え、紗奈は兄に駆け寄る。
「何?」
「紗奈、一ノ
紗奈は、最初に律希と陽介が会った時の事を思い出す。
「1人は……さっき陽兄が言ってた人?」
「そう。弓月さんの苗字で察したと思うけど、律の両親なんだ。2人ともSIX STORYで働いてた。ほら、警察にも卸した例のシステム、Juneの開発者だよ」
紗奈は朧げな記憶を呼び起こす。
「あっ、そういえば……、弓月さんって、よく陽兄がパソコンとか教わってた人?」
陽介がうなずいた。紗奈は驚いて聞いた。
「えっ、だから陽兄、一ノ瀬さんと知り合いだったの?」
「そう。律、コンピューターとか興味あるらしくて、よく来てたんだよ」
「陽兄も一緒だね」
「だから知り合ったんだ。律は、2歳下かな? 気も合ったから、結構仲良くしてた」
2人が知り合いだった事には納得したが、それだけでは、2人のどこかよそよそしい態度には説明がつかない。
陽介はそれについてこう言った。
「だけどある時から、急に律が来なくなったんだ。個人的には心配してたんだけど、律は中3で俺も高2だったからね。お互い忙しいじゃん? 会社に来て、俺なんかと話してる暇も無くなったのかなぁ。でも、いつかまた来るだろうみたいに思ってたんだよね」
話し方からすると、結局今日まで、律希はSIX STORYに行かなかったらしい。なぜかは彼にも分からないのか、陽介はそれ以上何も言わなかった。
「だからさ、聞きたかったんだよ。律、元気そう?」
紗奈は少し考えて、そしてうなずいた。
「普段は、普通に元気だと思う。一ノ瀬さん優しいし、修正部の中でも1番くらいに優秀だよ」
すると陽介はほっとしたように笑って、「良かった」と言った。
「1番優秀ってのはいいな。まあ、弓月さんと希美さんだってSIX STORY1の天才だから、当たり前か」
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