第12話 川野陽介Ⅳ
「でも、ライトストリートって言っても大きいですよね。もう少し絞れますか?」
「警察へのシステム導入の担当者だったのが、SIX STORYは俺でライトストリートは……
そう答えてから、陽介は手をひらりと振って弁解する。
「いや、寺西さんを疑ってる訳じゃ無いんだけどね。ここまで言っといてあれだけど、ライトストリートだってそんな事するようには思えないし」
対立している企業を攻撃するのなら、時間犯罪以外にも他にいくらでも手がある。わざわざそんな特異な手段によらなくてもいいような気がした。
「企業間の争いならそうだよなぁ。じゃあ、水無月家自体が恨まれてるのか?」
陽介が推理を始める。律希もその案にのって考えてみた。
「水無月家って言うのは、明雅社長でしょうか? それとも川野さん?」
一瞬自分の名前を呼ばれた気がして紗奈が顔を上げると、律希が
「ごめん、どっちも川野さんだったね」
と言い、陽介の事をさしていたのだと分かる。
「いえ、ごめんなさい。つい反応しちゃって」
「でも川野が……紗奈が恨まれてるって言うのは無いだろ」
ややこしいからか、律希は、紗奈の事を川野では無く名前で呼ぶ事にしたらしい。
呼ばれ慣れて無いせいで不思議な感じがしたが、少し嬉しかった。
ある事に気づいて紗奈は口を開いた。
「あっ、でも一ノ瀬さん。陽兄が恨まれてるって言うのは無いと思います」
「えっ?」
紗奈が陽介を見ると、彼は小さくうなずいた。どうぞ、と言うように手を出したのを見れば、話していいよ、と言う事らしい。
紗奈は説明を始めた。
「実は、……私と陽兄は、本当の兄妹じゃ無いんです」
紗奈の母は、SIX STORYの社長、明雅の妹である、水無月瑞穂みなづき みずほだ。父の川野朝陽かわの あさひはSIX STORYで働いていたただの平社員。紗奈はそんな2人の子供なので、当然水無月家との血縁も関係も充分にある。
しかし陽介の場合は違う。
シングルマザーだった陽介の母の琴葉ことはは、彼を育てながらSIX STORYで働いていた。快活で気の利く性格の彼女の社内での人望は厚く、紗奈の母である瑞穂も、何かと彼女と陽介の手助けをしていた。
しかし、陽介が8歳の時、彼女は突然の病気に倒れてしまう。
自分の余命がいくらも無いと知った琴葉は、いつも良く気にかけてくれていた瑞穂に、陽介を代わりに育ててくれないか、と頼み込んだ。
「──そんな感じで、私たちは兄妹になったんです。その時私は3歳、だったかなぁ」
紗奈が話し終えると、陽介が言う。
「お母さん──瑞穂さんの事だけど、お母さんも紗奈もすごく良くしてくれたからね。琴葉はママで、瑞穂さんはお母さん。俺には2人母親が居る」
少し重くなった空気を無くすように、陽介は笑った。
「って訳だからさ、水無月家が攻撃されても俺には関係無いんだよ。もちろん今の立場は無くなるけど、俺の存在は変わらない。
表立って言っては無いけど、この話、業界では有名な話だ。だから、仮に俺が恨まれてたとしても、水無月家に危害を加えるのは大分違う話なんだよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます