第12話 川野陽介Ⅲ

 陽介が言うのは真っ当な話で、さすがに律希もはぐらかせない。

 「分かりました」と言って、軽く説明することにする。


「事件改変、で分かりますか?」


「故意に歴史を変える事で現代へ歴史的な危害を加える時間犯罪」


 陽介は、ほぼ定義通りに答えた。


「それの標的がうちってこと?」


 察しがいいのに助けられて、律希はうなずく。


「基礎時代で、現代の人間に、過去の兄妹が襲われる事件がありました。その兄妹、東優斗とさやかが、水無月家の遠い先祖なんです」


「だから、うちがターゲットだと思ったんだね」


「はい」


「それで、その事件改変はもう起きたのか? 優斗とさやかはどうなったの?」


「2人は保護してあるので無事です。ただ、改変は起きています。まだよく分かっていませんが、別の方法で起こされてしまったと考えられます」


 律希の話を真剣に聞いて、陽介は問う。


「それは、かなり現代に影響が出そうなのか?」


 律希がうなずくと、陽介は「ありがとう」と言った。


「そう言う事情で修正に必要なら、話そうか。でも、他言無用だからね」


 陽介の言葉に、紗奈も律希もほっとする。

 

 そして、早速陽介が話し出した。


「心当たりならあるんだ。最近、……って言っても3ヶ月くらい前だな。普通警察がうちのハッキング防止のシステムを導入したのは知ってる?」


「知ってます。SIX STORYシステムの信用度、本当高いですよね。警察まで使うようになると、それももっと上がるんじゃないですか?」


「妥当だね。うちの天才SE製だ。俺は、世界一って言っても過言じゃ無いと思ってる」


 陽介は誇らしげに言ったが、次に少し声を落とす。


「でも実は……、すんなりうちのシステムに決まった訳じゃ無いんだ。警察が導入を検討したシステムはもう一つあって、それがライトストリート製」


 ライトストリートは、SIX STORYと社名が似ていることから、2つ合わせて2story'sと呼ばれる巨大IT企業である。


「さっき律が言ったように、警察にシステムが採用されれば、顧客としても安定だし、システムの信用度も上がる。プラス要素しか無い取引だから、うちもライトストリートももちろん欲しかった。

 まあでも、譲り合いなんてする訳無いからね。

 お互い必死に売り込みしたし、警察の人もかなり揺れてたよ」 


 それでも、最終的に勝ったのはSIX STORYだった。ライトストリート側からしたら、大きな損失だし、ライバルであるSIX STORYに出し抜かれたと言う話にもなる。


「それからライトストリートとの関係は?」


「表面上は特に変わらないよ。うちが不正働いた訳じゃ無いし」


 陽介はそう言ったが、心当たりとするぐらいだから、何かしらの変化はあったのだろう。明言を避けていても、それぐらいは律希にも伝わった。

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