第12話 川野陽介Ⅱ

「あっ、うん」


 本当は、状況を説明して欲しかったが、律希の、触れるな、といった空気の強さを感じて、紗奈も陽介に話を合わせる。


「あの……SIX STORYについて教えて欲しいの」


「SIX STORY? ずいぶんアバウトだな。特にどんな事?」


 何と言えばいいのか分からなくて、紗奈は無意識に律希を見る。すると、その視線を感じ取った彼はいつもと変わらない口調で説明を始めた。


「あまり詳しくはお話出来ないのですが、ある事件にSIX STORYが関係しているかもしれないんです」


「それは……加害者と被害者どっちで?」


 兄の反応に、紗奈は思わず口を挟む。


「加害者な心当たりあるの?」


 すると陽介は曖昧に、


「まあ、商売だし」


 と答える。

 そのやり取りは気にせずに律希は続けた。


「多分被害者サイドです。……犯人の心当たりとか、恨まれているかもしれない的な話はありますか?」


 陽介は即答で答えた。


「無いですね」


「そうだよね、SIX STORYは良心的な会社だし……」


 紗奈が少し安心したところで、陽介が首を振った。


「違うよ。心当たりがありすぎて絞れないって所かな」


「えっ?」


 紗奈が驚くと、陽介は笑って


「仕方ないよ。そりゃ商売だから」


 と言う。

 紗奈は思わず溜息をついた。


「そうゆう事じゃ無くて。陽兄真面目に答えて」


「真面目に、ね……」


 そう呟いて、陽介は笑顔を消した。さっきとは打って変わって真剣に考え込んでから、陽介は律希に聞いた。


「それはさ、個人? それとも大きめの組織かなんかかな?」


「まだ分かりません。どちらも伺えると助かります」


「分かった」


 陽介はそこで、紗奈と律希に席に座るよう促した。そして自分のパソコンを開いて、いくつかの社名などを打ち込む。


「最近大きめな取引があったのは、浅井ITとIPCデータだね。心当たり、と言うまででは無いけど、かなりうちに有利な取引だったから、多少の確執はあるかもしれない」


 陽介は、パソコンの画面に書いた社名を指しながら言った。


「浅井とIPCはそこまで大きな企業では無いですよね」


「ああ。だから、彼らに対してのSIX STORYの立場は強い。表面上は穏やかでも、うちの取引の仕方に、内心で何を思ってるかはわからないといったところだね」


 しかし、律希の反応は微妙だ。


「他にはありませんか?」


 今の話も確かに問題かもしれない。だが、よくある話だ。犯罪の動機になりそうなほど強く無いように思える。


 陽介はこの問いに、無言で律希を見つめてから、慎重に口を開いた。


「……こんな話じゃ足りないってことか?」


 陽介の、全てを見透かすような目線から、律希は思わず目を逸らした。

 SIX STORY次期社長などと騒がれる立場は、血縁だけの話では無いのだ。

 陽介の追及には、それだけの風格があった。


「これ以上の情報は、『時間警察がどんな事情でそれを知りたいのか』が分からない限り言えないな。答えることがうちにとってプラスかマイナスか分からない状況ではね」

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