第10話 J1改変

「──つまり、私たちは未来の人に狙われている、そういう事ですか?」


 律希がうなずくと、さやかは混乱して律希を激しく問い詰めた。


「じゃあ私たちどうなるんですか。このまま? 家には帰してもらえますよね⁉︎」


「さやか、落ち着いて」


「っていうか今何時ですか? お母さん絶対心配してる……」


 思い出して、さやかは急に泣きたくなった。ただでさえ、知らない人の中で、信じられない様な話ばかりを聞かされて、不安になっていたのだ。もしも家に帰れなかったら、なんて、怖くて仕方がない。


 しかし、律希はきっぱり言い切った。


「大丈夫。ちゃんと家には帰すから」


「……絶対ですか?」


 重ねて聞くと、和弥と紗奈も当たり前の様に言った。


「決まってるじゃん。ずっと面倒見てなんかられないんだから」


「心配しなくて大丈夫だよー」


 さやかが隣の兄を見ると、「だってさ?」と彼は全く怯えていなかった。


「どう見たってこの人たちが悪い人には見えねーだろ?」


「……どうしたらそんなに楽観的になれるわけ?」


 自分の兄ながら心配になったさやかだが、確かに律希や和弥や紗奈が嘘を言っているようには見えなかった。


 不安は不安でも、怖くて仕方がない、というような気持ちは薄れる。


 さやかのその様子を見て、紗奈がほっとした様に笑った。


「信じてくれてよかった」


 完全に信じた訳ではないけれど、さやかは何も言わなかった。代わりに、もう一つ質問をする。


「それで、これから私たちどうなるんですか? その……家に帰るまで」


「それは……」


 初めて律希が言葉に詰まる。慎重に言葉を選んで話し出すまで、少し時間がかかった。


「……まだ分からないけど、君たちを狙ってる犯人が捕まるまで、ここに居てもらう事になるのは確実……だと思う」


「どのくらいかかるんですか? あんまり遅いと困ります!」


 さやかが語気を強めて聞くが、それは時間警察にも分からない。


 和弥が呆れて、


「あのさー、一ノ先輩だって万能じゃ無いんだよ? 修正部は改変の事後処理が仕事。本来こう言うのは対策部の仕事で……」


「責任逃れですか⁉︎ やっぱり信用出来ません」


「いや、だから、」


 と苛立ち始める。


「……小四相手に苛立ってどうするんだよ」


 律希が和弥をさやかから引き離し、説明しようと試みる。


 しかしその時、それを遮るように、リリリリと警告音が鳴った。


「……嘘だろ」


 一瞬にして部屋が凍りつく。和弥が放心して呟き、律希がパソコンに走った。

 

 必死でパソコンを操作し、律希が時空間のリアルタイムグラフを出す。そこに表示される波線を見て、律希は言葉を失くした。


 Aクラス以上、律希が見たことの無い大きさのずれは、時間警察が経験した事の無い改変、「事件J一改変」だった。

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