第9話 過去3-2
「でも、かっこよかったです」
「……は?」
話の繋がりが読めない。律希は混乱したが、紗奈は律希を真っ直ぐ見て言った。
「一ノ瀬さんも篠木さんも、ちゃんと自分の意思と根拠があって、それを実現させるだけの技術があって……それがかっこいいなぁって思いました。
私には意味が分からない数列とかも、一ノ瀬さんは瞬時に見取って操作してる。その時の真剣さとか、修正部って本当にすごいです!」
紗奈の勢いと思わぬ言葉に、律希は何もいえなかった。
すると紗奈は少し目を伏せて、小さな声で付け足す。
「だから私……こんな先輩たちが居る修正部の一員になりたいって一瞬思っちゃいました。もちろん無理なんですけどね。今日だって軽い雑用しかしてませんから」
「そんな事……」
律希が否定しようと口を開く。しかし、紗奈はそれを遮って言った。
「あっ、すみません、こんな雑談付き合ってもらっちゃって。私、広報課の仕事しないといけないのでもう戻ります。多分、課長も先輩も私が仕事投げたせいで怒ってると思うし」
律希たち修正部の修正チームは、修正が終われば臨時休暇だ。でも、紗奈はそうでは無い。
律希はそれに気付いて、思わず紗奈を引き留めた。
「待って」
「……はい」
「手伝わせて。今日は修正部の仕事手伝わせちゃったから、代わりに」
しかし、紗奈は激しく首を振った。
「大丈夫です。ここに居れただけで充分、楽しかったし。ありがとうございました」
深く頭を下げて紗奈は修正部を出て行ってしまう。律希は、さすがに出過ぎたかな、と後悔した。
その時、律希の後ろから、
「あの子、あなたの知り合いなの?」
と声がした。律希は少し振り返って、中山の問いに答える。
「知り合いでは無いです」
「それにしては仲良さそうだったわね」
「そうでしょうか?」
律希が聞き返すと、中山は少し目を逸らして言った。
「川野紗奈……不思議な子よね。でも、頼んだ資料はすごく丁寧に作られていたし、すごく仕事熱心だった。──悪く無いのかな」
「……何がですか?」
中山の言動はいつも微妙に読めない。律希が聞くと、彼女は悪戯っぽく笑って言った。
「本気で和弥の後輩にしちゃおうかなって話」
「……聞いてたんですね」
「悪気は無かったのよ。でも、そんな風に考えてたら、ちょうどその話をしているところだったから。本人も、『そうしたいくらい』って言ってたわよね」
「でもそれは……」
さすがに冗談だ、と律希は思ったが、中山は律希の意見など最初から求めていない。
それが修正部に向かない広報課の新人でも、欲しいと思った人員を手に入れるのが、引き抜き屋の仕事なのだ。
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