第11話 SIX STORYと改変1

「東家が水無月家と繋がった家系って……?」


 紗奈は思わず呟く。


「それって、さやかちゃんとか優斗君が、私の先祖って事になる……?」


 二瀬に説明された改変の原因に繋がる手がかりは、紗奈を驚かせるものだった。

 

 SIX STORYの現社長は、紗奈の叔父の水無月明雅みなづきあきまさで、その後に会社を引き継ぐであろうとされているのが、紗奈の兄である川野陽介かわのようすけ


 この事実から分かるように、SIX STORYは水無月の家系が持っている企業である。


 二瀬が言うには、水無月家を700年遡って見れば東家との関係があるという事で、犯人はその繋がりから優斗やさやかを狙ったのではないか、と言う話だった。

 水無月の先祖にあたる東の2人の運命を変える事で、水無月家に歴史的な攻撃を加えたい、それが犯人の目的なのだ。


 過去の兄妹との意外な繋がりと、大き過ぎる話に、紗奈は不思議な感覚を覚える。


 しかし二瀬は、


「……ただ、そう考えても納得のいかないんですよね」


 と言う。


「偶然って事は無いでしょうから、これはきっと関係していると思います。でも問題は、優斗君たちが保護された後に改変が起こったという事です。

 何か、見落としていたのかもしれません」


「いずれ究明チームが調べ上げてくれると思うけど、なぜ改変が起きたのか、が分からない限り修正手段すら考えつかないわ」


 犯人の目的が優斗とさやかであったなら、2人に手が届かなくなってから犯人が改変を起こした理由が分からない。


 中山が、隣の片岡に聞く。


「TSチームが見つけた時代はいつだったの? そこでの収穫はあった?」


 しかし片岡は、いや、と首を振る。


「2015年だったが、逃げられた後だった。周辺を見ても変わった事は特に無いらしい」


「大きな事件とかが起きた様子は無いわけね」


「一切」


 何も分からない、先の見えない状況に、誰にともなく苛立ちがつのる。

 片岡が、


「とにかく今は犯人確保に至るまで、対策部のTSチームは動かす。一ノ瀬と篠木さんは修正の方に戻ってもらっていいから。……吉崎はどうする? 必要なら渡すが」


 と聞いたので、中山は首を振る。


「香織ちゃんは大丈夫。こっちもまだ究明分析が終わってないから、修正チームはまだ動けないの」


「分かった。じゃあ、J1改変は任せる」


「そっちも犯人の方はよろしく。二重改変の法則があるから、次の改変は無いと思うけど、二次被害対策は必要だから」


「言われなくても分かってるよ」


 片岡が答え、そのやり取りが一段落したところで中山が聞く。


「それで、SIX STORYへの聞き込みは?」


 二瀬が「それが……」と口を開く。


「一度、水無月明雅社長に連絡取ろうとしたんですけど、大事な会議があるからって取り次いでくれなくて」


 それを聞いて、紗奈は1週間前くらいに兄が言っていたことを思い出す。


「北海道での会議ですか?」


「あっ、はい。ご存知なんですか?」


「それなら、陽兄……川野陽介に連絡するのがいいと思います」


 社長の不在時、対応にあたるのは秘書の今宮か明雅に気に入られている兄の陽介。

 どちらかと言えば融通をきかせてくれるのは、生真面目な今宮よりも、陽介だ。


「川野陽介……?」


 二瀬には聞き覚えが無いらしく、繰り返して聞き直す。そこで中山が、


「紗奈のお兄さん」


 と説明する。


「えっ、それって……?」


「実は、この子水無月社長の姪なんですよね。陽介さんはSIX STORYで働いてる紗奈のお兄さん。だからここに連れて来たってわけ」


 言うのが遅れてごめんなさい、と中山が言った。

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