第16話

「ほら、前を見て運転してくださいよ。

この辺りの地形はあぶないのですから」


その女性は、とても奇妙な格好をしていた。

黒のワンピース纏い、その上からクラシックタイプの白いエプロンを着ており、

黒い髪の上には白のヘッドドレスを付け――。

......一般的に「メイド服」と呼ばれるような服を着ていた。


「……どうやって車に乗った」


そんなことはお構いなしに

カヤダは警戒を緩めずに、女性へ訊ねる。


「さあ、どう乗ったんでしょうね?」

「……お前は何者だ?」

「そうですね……」


女性は考えるような仕草をする。

そして、


「神様って言ったらどうします?」

「……は?」


カヤダは一瞬呆気に取られた顔をするが、

すぐに冷静になり、銃を構え直した。

先程の輝きを失った銃を持つ手が微かに震える。


「本気で言っているのか?お前は」

「冗談ですよ。そこまで警戒しなくてもいいじゃないですか。

……まあでも、あながち間違いじゃないんですけどね」

「……」

「あ、そこの方」


エリシアはビクリと体を震わせる。

名前を呼ばれているわけでもないのに、

自分の事を指しているとすぐに分かった。


「あなたの手にあるのは情報端末ですか?」

「......?」

「......そうだが、何なんだ?」

「いえいえ、懐かしい技術だなーと思いまして。

それのように古く、難解な物を使っている人は、もう居なかったので。

......懐かしいものです」


女性はふうっと息を吐き、微笑みを浮かべる。

それは、どこか後悔の年も含んでいるようだった。

それらの行動を傍から眺めていたエリシアは、女性に思った疑問をそのままぶつけた。


「なんで、ここにきたの?」

「それは、どういうことですか?」


エリシアの問いに、女性はそのまま聞き返した。


「だってかみさまなら、

なんでここにくる意味ないとおもう」

「......そうですかね?」


エリシアは首を縦に振る。


「意味ならありますよ」

「......?」


エリシアが不思議そうに首を傾げ、女性はますます笑みを深くする。


「だって、私はあなたを消すために――」


女性がそういった瞬間、



銃声が続く言葉をかき消した。

そして、女性座っている後部座席の背に大量の穴が空く。


「......あ?」


一番驚いているのは、女性に向かって発砲したカヤダだった。


「おやおや、いきなり手を上げるのは酷くありませんか?

これが実体だったら少々面倒くさいことになってましたよ」


彼女は傷一つつけずにそこに座っていた。

その代わりに、彼女のが少し乱れたことで、

カヤダ達の表情に驚きが浮かぶ。


「そこまで驚くことですかね......?

ま、いいでしょう」


そう言って、映像の女性は片手をゆっくりと上げる。

その腕に吸い寄せられるように先程の弾丸が後部座席から飛び出し、

指がカヤダたちの方を向くと、弾丸もそれに従う。


「最初にやったのは貴方ですもの。

遠慮はいりませんよね?」


カヤダを指差し、何かを放り投げるように――、


「さよなら」


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