来訪者。そして、転換

第15話

新章に入ります。


◇◆◇


怪物の死骸を尻目に、カヤダは急いで運転席に戻る。

先程の音に驚いているエリシアを隣の助手席へ移動させる。


「......大丈夫か?」

「......うん」

「......今回は助かった。ありがとう」


カヤダからの唐突な礼に、エリシアは戸惑っていた。

自分は大したことをしていないと思っていた。

頭の中を言葉ががぐるぐると回る中、捻り出したのが、


「............こちら、こそ?」

「......ああ」


エリシアから運転を代わったカヤダは、車の速度を少しだけ落とす。

二人を乗せた車は、廃ビルが立て並ぶ大通りへ入っていく。

その区画は、ボロボロになりながらも奇跡的にその原型を殆ど留めていた。

車内に、二人分の溜め息が広がる。

先程の緊張感で支配されていた車内とは変わり、

今は程々に気が緩んでいた。


「......まいったな」


カヤダが頭を軽く掻きながら、少し落胆した表情で言う。


「どうしたの?」

「早めにここから離れないといけないのに、目的の場所がない」

「......なにが、だめなの?」

「あんまり外をうろつきたくないんだよ。

最悪、さっきのような事がまた起こるから。

でも、見た感じ頑丈な建物が見当たらなくてな......」

「......最初にいたところは?」

「もう一度あの領域を通りたくはない。

恐らく、さっきの音で縄張りを増やしたい怪物が大勢来るだろう。

今行ったら、さっきよりももっとやばいやつが来るかもしれない」

「......う」

「だからって下手に彷徨うろつくのも良くないし、

どうすればいいか悩んでるんだが......あ?」


カヤダが気の抜けた声を上げる。

それと同時にアクセルも離したのか、車の速度も徐々に落ちる。

そして、カヤダを見つめていたエリシアも。カヤダと同じ方向を見た。


「............なんだ?あれ......」

「............???」


カヤダはかろうじて言葉を捻り出すが、

エリシアは言葉すら出なかった。

だが、二人共の頭の中には多くの『?』が飛び交っていた。


二人の視線の先には一つのビルがそびえ立っていた。

それだけなら何も不自然ではない。よくある光景だからだ。

二人が殆ど何も言えないのは、

何故か緑色に塗られている、ビルの外見の異様さだった。

それに怖さを覚えないのは何故なのか、自分でも不思議になる程に。

それはただただ、目立っていた。


「......なあ」

「............」

「......どうする?」


カヤダの問いかけに、エリシアは理性と好奇心の狭間で悩みながらも、


「......気になるなら、行ってみ、る?」


好奇心の方を優先した。


「......いや、でも見るからに危なそうだろう?」

「こわくないから、平気。......多分」

「『好奇心は猫を殺す』って言うんだぞ?」

「......なに、それ」

「『容易には死なないように見える猫でも、持ち前の好奇心が原因で命を落とすことがある』という意味を持つのイギリス由来のことわざですね。『好奇心が強すぎると身を滅ぼすことになりかねない』のような感覚で戒めに使うことが多いです。

ほら、今のように」


後ろから女の人の声が聞こえた。

エリシアがそう思った途端、銃を向ける音と共に、

僅かな、しかし確かな殺気と銃が後部座席へ牙を向いていた。

カヤダはそれを向けつつも、背中から這い上がる寒気に

動揺を隠せずにいた。


「おやおや、いきなりそれを向けてくるのですか?」

「......誰だ。お前」


エリシアは恐る恐る後ろを振り返る。

そこには、銃を向けられてもなお、

クスクスとこの状況を楽しむように笑う女性が目に映っていた。




◇◆◇


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