第9話

下の階で、カヤダはリュックの中身の再確認をしていた。

この中の物とあれがなくなったら、自分の命が消える。

そうわかっているからこそ、より入念に確認していた。

……だからだろうか、エリシアの接近に気づかなかった。


「……ねえ」

「ッ!」


辛うじて、銃口を向けずに振り向けた。


「……今度から、もっと近付かずに呼べ」

「呼んでた。でも、へんじ無かった」

「……マジか」


エリシアは頷く。


カヤダは、リュックの口を閉めると、振り返って、


「……それで、何かあったか?」

「ここの外って、あぶない?」

「ここの外……ああ、ビルの外ってことか」


エリシアは首を縦に振る。


「まあ……危ないっちゃ危ないな。

最悪、また昨日みたいに追いかけられることになるぞ」


エリシアがびくりと体を震わせる。

昨日のことを思い出し始めたのか、徐々にドアから遠ざかっていった。

……やはり、あの時のことは強く記憶に残っているらしい。


「外に出たかったんじゃないのか?」

「……どうして、そう思うの」

「じゃなかったら、んなこと聞かねえだろ」

「……」


カヤダの言葉は当たっていた。

エリシアは否定することができず、そのまま黙り込む。


「比較的安全に外に出ることならできるぞ」

「……ほんとに?」

「ああ」


と言ってからカヤダは、少し嘲る口調で


「どうした?外に出るのが怖いか?」

「……うん」

「それじゃあ、俺はリシアにこの世界のことを教えてやれないなぁ。残念残念」

「……ッ」


エリシアは、ギュッとツギハギだらけの服を握りしめる。


「……たい」

「ん?」

「行きたい」

「おう。んじゃこっち来い」

「……すぐ行くの?」

「じゃないと、その決意が揺らぐかもしれんからな。速い方がいいんだよ」

「……うん」


じゃ、こっち来い。

そう言ってカヤダは奥へ奥へと歩いてゆく。

歩幅のせいでエリシアは若干小走り気味になるが、なんとか付いていく。


「……これだ」

「……これ、何?」

「車って知ってるか?」


エリシアは首を横に振る。

カヤダは「そうか」と言って一息ついたあと


「まあ、乗ればわかる」

と、ほとんど説明をしない。


「……」

エリシアは不満そうにカヤダを見た後、恐る恐る車に乗り込んだ。

中には、椅子のようなものと、小さなリュックサックが一つ。


「そのにある荷物はお前のだからなー」


いつのまにか前に乗り込んでいたカヤダがそう言う。

エリシアが頷いたのを確認すると、カヤダは前の座席にあるレバーを引いた。


瞬間、目の前の景色が変わる。

無骨な建物の中ではなく、仄かに明るい光が窓から入ってくる


「ほら、ついたぞ」


そこは────


◆◇◆

ようやく終わりました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る