第10話

不思議な街があった。

廃墟と化した建物が積み上がっている箇所に大きい門があり、大きな提灯が門の正面にぶら下がっている。

その中から見えた街の中は、

とても賑やかだった。

明るい光が仄かに動き、様々な人の声が飛び交うのが車の中からでも聞こえた。

……でも、その光景の中に人はいなかった。

エリシアは、まるで街自体がその街の記憶を再生しているようだと思っていた。


「──それを持ってくれ」


エリシアは意識が一気に引き戻される感覚を味わう。

カヤダが指差したリュックサックを背負い、


「んじゃ、これを被ってもらえるか?」


そう言われ、エリシアがカヤダから渡されたのは、黒いお面だった。

不気味な気配を放つそれは、顔に固定するための紐でさえ黒色でできていた。


「ま、お前の髪色が黒でよかったよ」

「……?」

「そうじゃなかったら、色々とするつもりだったからな。更に時間がかかってぞ」


カヤダの声音が急に怖く感じ、エリシアは急いで仮面をつける。


……思っていたような感覚は来ずに、ただ、視界が少し狭くなっただけだった。


「……なにかあるんだと思った」

「別に、俺が渡すもの全てが変な物じゃないからな」

「……これ、変なのじゃないの?」

「…………」


カヤダはそっと目を逸らす。

よくよく考えてみれば、普通だったらありえない物をよく渡しているように感じてきたからだ。


「……この世界も変だから、仕方ないだろ」


誤魔化すように呟き、エリシアに「行くぞ」とだけ言い、いつもより速めに歩いていく。


門の中へ入る直前、カヤダがエリシアの手を強引に取る。

驚いた顔をするエリシアに、


「はぐれたら、もう一生会えないから気をつけろよ。この先はそういう場所だ」


カヤダはそっと、脅しの言葉をかける。

そっと触れるように握られていたのが、途端に強くなる。

すると、ただ握っていただけの手が、小さく、少し強い力で握り返された。

心なしか震えている気がする。


「大丈夫だ。何か無い限りは離さなねぇよ」


カヤダがそう言うと、エリシアは驚いたように目を瞬かせた後軽くそっぽを向いた。

少しばかり赤くなった耳を尻目に、カヤダはエリシアの手を引き、門の中へと足を踏み入れていった。


◆◇◆

今更ですが、何か知りたい情報や、「ここ変じゃない?」みたいた箇所がありましたら教えてもらえると助かります……。

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