休み時間も寝ている有藤くん

 今日は朝から休み時間を使って、この事件に関わっていそうな人たちに話を聞くつもり。

 有藤くんには時間がない。ただしくは名探偵として頭を働かせてくれる時間がない。五分も経てば眠くなってしまうから、わたしが先に情報を整理しておかなくちゃいけない。 


 昨日、理沙を家まで送ったときの話だと、彼女が教室を出るときには六人が残っていたらしい。でもわたし達が戻ったときには誰もいなかった。

 理沙が教室にいなかった十分くらいの間にマスクがなくなったのは紛れもない事実。この六人に聞けば何かわかるはずだ。


 一時間目が終わってすぐに眠り始めた有藤くんを横目に、最初はテニス部の真奈美に聞いてみた。彼女は明るくて可愛いし、美優が言っていたような嫌がらせをするタイプには見えないけれど。


「え、昨日の放課後? 着替え終わって教室にいたけれど一人になったことはないよ。理沙が来たのも覚えてる。そういえば小百合が理沙の机の近くで何かしていた気がする」


 これは重要な情報かも。さっそくブラスバンド部の小百合を探す。

 でも彼女のこと苦手なんだよな。なんか人を小馬鹿にしたような感じがあるし。


「なぁに? ふーん、そう。私が教室を出るときには圭くんしかいなかったわよ。でも彼一人だけなら、気づかれずに私がこっそりと何かできたかもしれないわね」


 最後にニヤッと笑った。マスクで隠れているけれど絶対にそう。

 理沙の机の近くで何をしていたのかは教えてくれなかったし、やっぱり苦手。


 二時間目が終わり、教科書を手にしたまま固まっている有藤くんを放っておいて、野球部の圭に話を聞きにいった。


「うん。教室を出たのは最後だったよ。その後は涼真と一緒に自主練してたから分からないなぁ」


 昨日帰るとき、校庭で野球部が練習していた記憶がある。でも、最後まで教室に残っていたのなら何でもできたはず。あー、分からなくなってきた。

 とりあえず涼真にも確かめなきゃ。彼の席は理沙の隣なので、彼女と一緒に話を聞いた。


「えーっと……。誰が残ってたかなぁ。わりぃ、覚えてないや。あぁ、校庭へ行くときに階段で美優とすれ違ったよ」


 それは初耳だよ。

 まさかとは思うけれど聞いてみよう。そう思って美優を探したけれど見当たらない。後回しにして貴裕のところへ行く。

 理沙が教室を出たときには彼もまだ残っていたみたい。


「帰る支度をしていたけれど、図書室に忘れ物をしたのを思い出して取りに行っていたんだ。教室には三人がいたのは覚えてる。戻ってきたら理沙が泣き出したんで驚いたよ。

 美優? うん。教室に来たけれど、すぐ出ていったはず」


 ここでチャイムが鳴ったので続きは後で。


 三時間目が終わる頃には有藤くんは溶けていた。机の上にべちゃっとなってスライムみたいに広がっている。

 最後の六人目はテニス部の麻実。普段からおしゃべりな彼女は気になることを言った。


「それって涼真が怪しいんじゃないの? 隣の席だし、誰かが教室にいたってササっと取っちゃうことなんて簡単にできるもん。私は真奈美の後を追いかけてすぐに帰ったよ」


 うーん。野球部の男子は二人とも怪しいかなぁ。小百合が意地悪した可能性もあるし……。

 わたしが聞いたことを簡潔にまとめたメモを作った。あとは給食の後、有藤くんを目覚めさせるだけだ。

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