俺は先輩が心配だ…

 俺はシャンプー二つを購入したのを風呂場へ持って行った。以前使っていた物とは違う新しい物を買ってみた。

 クールシャンプーと呼ばれるやつだ。もうすぐ暑くなるこの季節にいいだろうと思い、ヘアシャンプーもボディシャンプーもどちらもそうした。

 そして軽くお昼でも食べようと思い、何を作ろうか悩む。


 「先輩はなんかお昼食べたんですか?」


 「いや。なんか食べるの?」


 「サラダとか適当に作ろうかなって。ツナにレタスにコーンと、あとマカロニもあるなぁ、プチトマトも買ってきたし。先輩も食べます?」


 「食べるー!」


 俺に体勢を向けてそう言った。

 じゃあサラダでも作るか。


 俺は手を洗った後ボウルを用意する。中にレタス、コーン、マカロニを入れて百円ショップ製のトングで混ぜ合わせる。いい感じならなったらプチトマトをカットしたものを入れて軽く混ぜる。そして最後に特製のドレッシングをかければ完成。

 二つプレートに盛り付けた俺は、フォークと一緒にテーブルに持っていく。先輩の分も作った。


 「出来ましたよ。こんなんですけど」


 「ありがとう!」


 そして二人でテーブルを囲い、いただきますをする。


 「美味し」


 「よかったです。先輩今日の夜何にします?」


 「夕食?」


 「はい」


 「なんでもいいよ。亮ちゃんの手料理食べてみたい」


 なんでもいいか。人によっては困る質問だが、俺は余ってる食材で何か作ろうと思う。

 パスタとかどうだろう?ペペロンチーノとか作った事あるからそれにしようかな?いや、カルボナーラとか手間かかるけどやってもいいかも。


 そんな事考えたりしちゃってた。


 「あ!なんなら今日私が作ろうか?」


 「マジすか!?何作ってくれるんですか?」


 「カレーしか作れない!!」


 「…俺が作りますよ。カレーは昨日食ったしもういいじゃないですか。和・洋・中華、色んなの作れますよ。どれがいいです?」

 

 「カレー!」


 話聞いてたのかな?カレーも作れるけど流石に二日続けてはゴメンだ。


 「カレー以外でお願いします…」


 「じゃあ、ドライカレー」


 「…他は何がいいです?」


 「バターチキンカレー」


 「すいません…真面目に言って貰っていいですか?」


 「カレーライスッ!」


 自衛隊が敬礼するポーズをしながらそう言った。そう言う意味ではない。


 「…オムライスでいいですか?」


 「うん!」


 先輩は満足した顔でそう言った。さっきまでのやりとりはなんだったのか…


「じゃあ、そうしましょうか。材料あったっけな?」


 そう言って俺は立ち上がり、冷蔵庫の中を確認する。


 「卵と米はあるとして、何か食材でいい物…」


 見てみたが、色々材料はありそうみたいだった。オムライスはいけそうだった。


 「じゃあ、オムライスにしましょう」


 「なんかごめんね。私何にも力になれなくて」


 「あぁ…まぁ、こんな時ですし。何かちょっとした事でもいいので手伝ってくれたらいいです。あっ、でも無闇に外に出たらダメですよ。ストーカーとかに見つかってしまうかもしれないですし」


 今もどこにいるかわからないから不安である。しかもあんな格好で中にいるんだから、尚更俺は先輩が心配になる。


 「しばらくは家に待機です。いいですか?」


 「わかった。亮ちゃんはいい子だね」


 「あ…ありがとうございます…。何か買い物があるんだったら俺に言ってくださいね」


 「うん。わかったよ。亮ちゃんがいてくれて本当によかった」


 そう言って先輩はソファーに上半身をもたれかかる。


 「しかしストーカーのせいで外に出る事も制限されるとか、生活が不便ですね。いつも先輩はどういった生活にしてたんですか?」


 「私、外に出る事なんて、バイトに行く時か大学に向かう時しかないからねぇ。休日はゴロゴロしてた。でもストーカーが家の前まで来たら怖いなって言う気持ちはずっとあって、中にいても怖かったし、外に出るのも怖いし。なんか二十四時間監視されている気がしていて。今でも自分の家に盗聴器とか、監視カメラとか置かれているんじゃないかなって不安でもあるんだ。だから…誰か側にいて欲しかった…頼れる誰かに…」


 そうだよな。正直不安になるよな。まだ大学生というのもあって生活感において不安に陥る傾向になるのは分からなくはない。俺も一人暮らしなんて最初はワクワクしていたが、いざなってみると何をすればいいか分からないでいて、不安になった日々だったし。特に変な勧誘とかしつこかった。俺は大学にまともに行けるか分からなくて、いつも心配していた。

 でももう慣れた。

 今は五月の下旬頃。正直蒸し暑さに襲われていて肌がベタベタ感に襲われる嫌な時期。だからエアコンとか点けようか迷うくらいである。

 この時期は体調面もそんなに心配する事ないから気楽ではある。

 しかし暑いからと言ってスポブラはないでしょ…流石に…


 「亮ちゃんって体力に自信ある方?」


 「体力…ですか?正直どうだろう?まぁ周りからは運動神経がいいとか、体力面に関しては若いなぁと言われてましたね。あっ、でも力が強いとかはないですよ。そんな怪力男なんかに見えないでしょ?俺」


 俺は紙コップに水を入れながら言った。


 「でも亮介ちゃん、意外と筋肉ついてるんだね。パルクール?ってやつやってるだけあるよね。細身のある健康体って感じ」


 俺、そんなに筋肉ついてるか?と疑問に思った。


 水を飲み干した俺は、自分の腕を見て確かめる。

 自分では分からないが、先輩はあると言っているのだからある方なんだろう。ただし、見た目だけであり、力なんて全くなしだ。


 「どうも、ありがとうございます。先輩だってジムでトレーニングしてるんでしょ?」


 「そうだけど…私は力もなければ亮ちゃんみたいに運動神経がいい事もないし。私なんていざ誰かに襲われたら何もできないもん」


 「そうですか。それだと不安ですよね」


 かと言って俺も同じだ。何が出来るかなんて分からない。だから俺に出来る事なんて何があるだろうかと疑問を感じた。そして先輩も不意に襲われた時どう対処するのか分かっていないみたいだ。だからより先輩のことが心配になる。


 「そう。私、相手に襲われたら手も足も出ない人間だもん。怖くてさぁ、相手が力が強かったら終わりだもん」


 「でも、ある程度の抵抗なら出来るでしょ?だって腕、ちょっと筋肉付いてますし、後腹筋とか割れてるじゃないですか」

 

 「……見た目だけだよ。って言うか亮ちゃん…」


 急に上半身を起こした。そして台所にいる俺の方を見る。ソファーの背もたれに隠れながらこちらに視線を向けて。


 「なんですか?」


 「やっぱさっき、私の事ジロジロ見てたでしょ?」


 「…えっ!?そ、そんな事ないべすよ!」


 また噛んだ!ですよと言おうとしたら唾が出そうになって変な感じになった!

 俺は唾を拭き取って、先輩から背を向ける。

 

 先輩、もしかして…バレた?


 「なんで背中見せてんのさぁ。さーてーわ!」


 「………いや、唾が出そうになったので拭き取っただけです!汚いかなって思って」


 早口になって言った。もう動揺している事が丸わかりだ。


 「みーーてーーたーーなーー?ンフフッ!」


 俺はチラ見するように先輩の方を見た。

 あの視線だ!俺を怪しむあの視線がこちらに向いている。

 ひょこっと顔を出した先輩はニコニコしていた。そして起き上がり、俺の方に近寄ってくる。


 「んーーー?本当は?ねぇ、本当はどうなのぉ?亮ちゃーん」


 「だから別に疾しい気持ちではなくて…」


 「疾しい気持ち?じゃあ、見てた事…認めますか?」


 こちらにどんどんと近づいてくる。俺は背を向けるのをやめた。もうそんな事しても逃れられそうにないからである。


 「せ、先輩もそんな格好してるからですよ。そんなんでいたら…みんな見ますよ…普段自宅でそんな感じで過ごしてたら…ス、ストーカーの一人や二人出るでしょう?」


 「残念でしたー!普段はこんな格好じゃありませんでした。まともでしたー」


 「じゃあここでもそうしてくださいよ!」


 何ニヤニヤしながら近づいてきているですか!?離れてください!先輩!


 「亮ちゃん…もしかしてー?」


 その上目でいる体勢もやめてほしい!色々と目のやりどころがないから。もう胸なんてモロ見せにきているんじゃないか?と勘違いしてしまうでしょうが!


 「先輩!?あんまり近寄らないでください!」


 「え?なんで?」


 「いや、まぁ色々ですよ…」


 俺の顔はもう発火してしまいなくらい熱い。恐らくもう真っ赤になっているだろう。これはもうバレている。俺がジロジロ見ていたのが。


 「クックックッ。やっぱ亮ちゃんってさぁ…」


 俺の耳元まで顔を寄せてくる。


 「彼女出来た事ない?」


 小声でそう言った。


 「いやいやいや!そんな事ないですよ!何言ってるんですか?俺いましたよ…一人…」


 「なーんかそれ、彼女いない人とかが言う嘘によくあるパターンなんだよねぇ」


 なんだ?そうなのか?ってか意外と詳しいなぁ、先輩は…

 まぁ先輩は今まで彼氏が沢山いそうな気がする。こんな風にスキンシップ取ったりするのは、もうそれくらい慣れている証拠だろうから。


 「そんなん、どうでもいいでしょ!」


 「うーん、私は知りたいなぁ。亮ちゃんの彼女ってどんな人だったんだろう?どういう馴れ初めで出会ったのかなぁ?どれくらい付き合ったのかなぁ?」


 俺の顔をジロジロ見ながら、顔を寄せて探り当てようとする。

 

 「ねぇねぇ、本当に彼女いたの?どうなの?」


 顔が近い!台所のシンクまで追いやられた。これ以上下がれない。


 「高校一年の時ですよ。彼女は…」


 「んで?」


 「同じクラスの子。バスケ部のマネージャー…」


 「目を逸らさずに言いましょうね。じゃないと疑われますよー?ホラホラ、顔が赤くなってきてるー!」


 「もうそんな事よりストー…」


 「話逸らしたぁ!恋愛話聞いただけなのに、そんなに焦ってるなんてますます怪しい!恋愛話なんて最高の思い出じゃん!別に話せるでしょう?それくらい。それともなんか聞かれたくない事情でもあるの?」


 「まぁ色々と」


 「じゃあそれ言ってみて!」


 「え?」


 もう八方塞がりになってしまった。どう誤魔化せばいいのやら。


 「んーーーー?」


 どんどん離れようとすればする程追いかけてくる。段々としつこくなってきていた。まるでストーカーのように…

 

 「先輩近いです。そんなに近寄らなくても聞こえるでしょう!」


 「亮ちゃんが話さないからでしょ?私も逃がさないからぁ!ねぇねぇ、二人きりなんだし話してよー」


 そう言って俺の腕にしがみつく。そしてやや胸の感触がしたのだった。

 

 

 

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