帰りに俺の寮の前で

 スポッチャに着くと、そこには俺達と同じキャンパスにてよく見かける生徒達がいた。もうわんさかと店内でゲームセンターやレジ前で群れとなっている。


 「うわー!いっぱいだなあこりゃ」


 「どうする?」


 門屋が店内を見て驚き、細井が俺達に問いかける。


 「まぁ取り敢えず受付だけ行ってみるか?」


 門屋の提案により受付まで向かった。順番待ちは然程長くはなかった為、直ぐに俺達の番になった。


 「あ、三名で。後、ボーリングのセットでスポッチャを」


 「ハイ。では三名でご用意せていただきます。失礼ですが、皆様は大学生ですか?」


 「えぇ。全員大学生です」


 「学生証をお持ちでしょうか?」


 店員がそう問いかける。


 「そっか!今学割で安くなるって先輩が言ってたなぁ」


 門屋がそう言うと、スマホケースのカード収納スペースから学生証を取り出した。

 そして俺も同じように学生証を取り出す。俺は財布の中に入れてあった。スマホケースはクリアケースのカバーである為収納出来るスペースがないからである。


 「おい細井。早く出せよ」


 細井が学生証を探しているのを待っていた俺達。門屋がそう言うが、一向に見当たらないらしい。


 「学生証…もしかして失くしたかも…」


 「どんまーい!」


 細井のミスを呆気なく片付ける門屋。俺は無言で細井の事が心配する目でみている。


 もうコイツ大丈夫か?学生証失くすのは流石にマズイだろ?学生として…いや、人として如何だろう…と。


 「まぁ、お二人共お持ちのようですので、今回はお客様も対象とさせていただきますね」


 ハンサムな店員が細井にそう告げる。細井はさっきまでの焦りがなくなって、テンションが上がった。


 なんていい人なんだ!心までハンサムじゃないかこの店員。きっと学生時代は優男でモテモテだったのだろう。俺みたいに…ボーイとかにも向いてるんじゃないか?俺みたいに…

って言うのは置いといて


 「お前は本当色々と恵まれてんなぁ。もうそんなミスすんなよ。大学生なんだし」


 全く同意見だった。門屋も俺も学生証を仕舞うと、受付表にサインを書いてチケットを貰った。


 ◇ ◇ ◇


 俺達は最高の暇潰しを堪能できた。もう充分と言える程に。

 ボーリングでもスポッチャでも、合計で言えば、俺が一番。次に門屋。そして細井だった。何故アミューズメントパークに行き慣れていない俺が一番だったのかは分からないが、とにかく楽しかった。

 最後はあんまり俺自身好きではなかったが、記念にプリクラを撮った。


 「あぁー。今週もお疲れ様!」


 今日は金曜日。明日から二日の休みがある。

 細井がそう俺達に伝えると、お互いに返事し合う。そして帰りはバラバラであった為、解散をした。

 二人共電車通学の為、俺のみそのまま自転車で帰る事となった。

 俺の実家は大学から離れている。何時間という話ではない。県を跨いではるばる今通っている大学に所属している訳だ。だから俺は一人暮らしを決断し、現在は学生寮に住んでいる訳である。大学寮もまだまだ慣れない事ばかりである為、少しばかり実家が恋しくなっている自分がいる。何せ仕送りを貰ってばかりで、自分から積極的に家事全般を行うなんてやらないからである。今更後悔しても遅いが、実家に住んでいる時に家事の手伝いとかしておけばよかった。


 「…明日バイトかぁ。面倒くせぇ」


 そう。明日からアルバイトがある。

 俺は溜息が漏れる。

 自転車を押しながら帰って行く。明日の事を考えると少しばかりか憂鬱感が心を埋めていきダッシュで帰る気力を失くす。だから乗って帰る気力も出ない。


 「時給はそこそこいいんだけど、楽しくねぇんだよなぁ」


 俺は某映画館でバイトをしていた。担当はチケットを貰ったお客様に何番かを伝えたり、館内を掃除する業務である。土日は給料がアップの日の為必ず入れているのだが、平日は勉学に勤しむため一日入れるくらいである。


 俺はなんとか寮の近くまで歩いて来た。そして、いつも見るコンビニエンスストアに立ち寄る。

 自転車を指定の場所に停めて店内を入ろうとしたが、チェーンをしていなかった事に気づいた。さっさとチェーンを付けて中に入る。

 ここで軽いインスタント食品を購入する事に決めた。

 店内に入ると、目の前に一番くじ商品がずらっと並んでいる。今回の商品は某有名アニメの商品であった。だが、俺は興味がないので軽く目を通したくらいでスルーした。


 「…あっ、今日スポッチャで使っちゃったから、あんまり金ない…」


 ATMで降ろせばいけるのだが、手数料を取られてしまうのが嫌だった。こういう所をケチだとよく周りの人達から言われる。だがその分、細井のような人にお金を貸したりしてしまうのだ。


 「……細井…やっぱ手数料取っときゃよかったなぁ…」


 財布の中はもうお札の現金など入っていない。クレジットカードなんて物も作っていなかった俺は、ふとある事に気づく。


 電子マネー!そうだった!電子マネーがあるじゃないか!俺はこういう電子決済アプリを登録してあった。それは単なる便利そうだからという理由でだ。これなら手数料を取られたりせずに支払いが出来る!


 俺は自分は賢い!と内心褒め称えるのと同時に、最近の決済は便利になったと感心し直す。

 俺はアプリを開いて、電子マネーが幾らかポイントが貯まっているのを思い出して注目した。


 「おっ!200ポイントあるし!だったら…いや、今週倍になってポイント貯まる!?」


 下のインフォメーション欄にそう書いてあった。タップして内容を確認すると、今月で一万円以上使った方は対象の店ではポイント倍になるとの事。


 「どれどれ…対象の店はっと…」


 コンビニは一つもなかった。

 俺は電子マネーにお金をチャージした。

 チャリン♪と音が漏れていたのに気づき、周りの人数人が反応したので、俺は今更ながらミュートにした。


 「………どうも」


 何故か近くのお客さんに目が合ったので軽くご挨拶した。その後、インスタント食品をカゴの中に投入する。


 インスタント食品三つ、大きめサイズのペットボトル飲料水一つ、お菓子一つ。まだ買えるなぁ…いや、無理して買う必要はない。


 もうこれ以上買う物がないと判断した俺は、レジへと向かい商品を購入する。


 「お支払いは?」


 「これでお願いします」


 堂々と店員さんの目を見て、スマートフォンから電子マネー決済画面を開いた状態で、代の上に置いた。


 「はい。580円を電子決済ですね」


 バーコード画面に読み込んで貰った後、レシートを受け取った。


 「どうもありがとうございました」


 笑顔で俺に伝えた女店員さんにこちらも軽く笑顔で返す。

 そして、レジ袋に詰め込まれた商品を持って帰る。

 今晩は適当なインスタントカレーにしようと決めた為、辛口味のインスタントカレーが袋の中から透けて見える。俺はそれを見て少し微笑み、袋の持ち手部分を自転車のハンドルに引っ掛ける。

 

 俺はリュックサックで大学に通っており、荷物は全部鞄の中に詰め込んである。その中からスマートフォンの充電器を取り出した。

 電源を入れ、充電を開始する。その間はなるべくスマートフォンを触らないようにする為、鞄に充電器ごと仕舞う。

そして真っ直ぐ帰ろうと準備をした。

 自転車防犯チェーンを外して自転車を跨いだ。そして鞄を背負おうとホックを閉めようとした時だった。

 中から今日結衣先輩から貸してた教科書が視界に入った。俺は何故か分からないがそれを手に取る。


 『亮ちゃんのおかげで、講義のレポート作成になんとか間に合ったわ』


 結衣先輩…

 思えばいつの間に結衣先輩と仲良くなったのだろうと考えた。


 確か、ゼミナールの紹介で、担当の教授が今担当してる先輩達の自己紹介をしていく中で交流を深めたんだっけか?その後、色々と一人暮らしをしている事や地元が遠いって話をしてたら、結衣先輩が一人暮らしの辛さを共感してくれたんだっけか。

 確か結衣先輩も一人暮らしとか言って気がする。だから俺も色々と知恵とか教えて欲しいとか言って会話が弾んで、そこから仲良くなった気がしたんだった。


 俺はそんな事を思い出しながら鞄の中に教科書をしまった。そして鞄を背負って自転車を漕ぐ。


 「すっかり遅くなっちゃった…」


 そう呟きながらも無事、自分住んでいる学生寮に着いた。

 自転車を駐輪場に停めて、チェーンを掛ける。

 俺の住んでいる寮は二階建てとなっており、一階が女子専用で男子が二階となっている。しかも、ここだけに寮がある訳ではない。俺の住んでいる所と後もう一箇所設置してある。それは大学から徒歩二分程度の所にある場所だ。

 そこも全く同じ建物ではあるが、何せ部屋が少ない。だから俺は多い方を選んだのだ。

 横一列に10部屋あるのだが、俺の部屋は階段を登って六番目。

俺はさっさと昇ろうとした時だった。


 「……ん?」

 

 俺の左肩に何か少々重たい何かが乗っていると感じ、左の方に視線を向ける。


 …手!?


 そして後ろを振り向いた時、俺は目を見開いて叫んだ。

 

 

 

 


 


 


 


 

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