大学生活がストーカー被害女子の先輩によって一変したんだが…

森ノ内 原 (前:言羽 ゲン

俺のキャンパスライフ

 大学生活はマジで楽しい!

 同じキャンパスで出会った仲間は、俺の日常の暇つぶしを楽しませてくれる。今日も、無事つまらない講義ではあったが、すべての講義を終えた俺達は遊びに行く事にした。


 「よっしゃ!今日どっか行かね?」


 髪を金色に染めた、お洒落な柄のTシャツにダメージジーンズを履いた友達が話題を振った。

 手持ち鞄からスマートフォンを取り出して、時間をチェックする。

 

 「俺も賛成!」


 その仲間である、坊主ヘアで小太りの男子大学生の仲間が、その話題に乗っかった。


 「ウェーイ!じゃあ俺も!」


 俺も反応する。


 「亮介はともかく、お前金あんのかよ。この前金ねぇ金ねぇって言って、俺らに恵んでくれってしつこかっただろ」


 「あるって!バイトの給料入ったから!」


 さっきの二人でそんな会話を繰り広げていた。


 「それで?亮介は?金、余裕そう?」


 俺に話題を振って来た金髪ヘアの友達に俺は応える。


 「あったり前でしょ!俺は細井と違って金に余裕だから!」


 「俺の名前出さなくていいだろ!亮介!」


 「いや、でも事実俺に借りた一万まだ返して貰ってないから、俺はそれだけ貸せる余裕があるって事」


 「えっ!?細井お前まだ返してねぇの?」


 「まだ返してもらってないんだわ。もう頼むぜ細井。冗談はその顔と苗字に合ってない身体だけにしてくれよ」


 俺が細井にそう返すと、俺の顔を睨んできて『うるせぇ!ほっとけ!』と言い返して来た。


 それを聞いて爆笑する金髪の男子友達。

 門屋雄二かどやゆうじ。俺と同じ大学に入って最初に出来た友達だった。ゼミナールでも同じ、履修している講義も殆ど同じな為、出くわす機会が多くなってより親しい仲となった。


 「ったく、今日返すって!心配しなくても借りた恩義は必ず返すよ。俺はな」


 「できれば倍で返してくれるとより信頼度が増すなぁ。俺はな」


 ちょっと憎たらしくなったかもしれない。だが、こんな態度でも許してくれるのが、この細井智久ほそいともひさである。コイツはとにかくお調子者な面がある為、周りからチヤホヤされやすい。だから俺も、こんな風に金を恵んであげたりしてしまうのだ。

 

 コイツが女だったらなぁ…と毎度思ってしまうが、口には出さなかった。


 「で?今日はどこで遊んじゃいますか?」


 と門屋が提案を出すように話を戻した。


 「そうだな…この前行かなかったスポッチャとか行きたい!」


 細井の提案が出た。


 「じゃあスポッチャ?」


 門屋が問いかけてきたのに対し、俺達は賛成した。

 俺達が歩いてるキャンパスの敷地にはだだっ広い駐車場があり、そこに自転車で通勤・通学する人が停めているのだが、俺はその自転車通学である。

 チェーンを開ける為、四桁のナンバーを揃える。

 

 0120。これが俺のナンバーだ。わかりやすくて見覚えのあるナンバーにしてある。

 俺が自転車のチェーンを解除し、自転車を押し出す。


 「よし行こっか!」


 「あ、あれ先輩達じゃん!」


 「マジだ。おーい!皆今から暇ですかー?」

 

 二人して、俺が自転車を乗ろうとした矢先に他の人達に手を振っていた。

 右方向に視線を向けると、手を振っている女子の先輩達の集団がいた。とは言っても、その中には俺と同世代の人間も混じっている。女子達は先輩と仲良くするのが得意なのか?俺はそう思った。


 「おーい!馬鹿三人共!」


 そう言ってきたのは、同じゼミナールの女子だ。

 こっちに歩いてくる女子の集団。人数は六人程いた。その中の三名は知らない人達である。


 「先輩達も遊びに行くんすか?」


 「いいや、私達はちょっと昼ごはんを食べに行くだけだから」


 「ウチら三限に備えてスタミナつけてくるだけ。どうせアンタらバカ共は遊びに行くんでしょ?いいなぁ、もうこの後何もないなんて」


 同世代の女子二人が俺達にそう言う。


 「だったら俺達と同じ履修にしておけばよかったじゃん」


 「いや、一年の内にいっぱい取っといた方がいいかなって思ったから」


 門屋が『心配しすぎだろ』と言って、笑って応える。


 「アンタ達もちゃんと履修は取っといた方がいいと思う。早いうちに真面目にやっておけば、後々楽だよ」


 「ウチらだって最初めっちゃ取って、今そんなに取らなくて済んでるんだから」

 

 先輩達のアドバイスはどこか俺の心境に突き刺さる感じがした。

 俺は真面目には講義を受けている。だが二人の男子と同じく履修はそんなにとってないのだ。

 他の二人は平気そうだが、俺は不安に襲われそうになった。


 「あっ、亮ちゃん!これありがとうね」


 そう言ってきたのは、俺の一つ年上の先輩。 

 長いロングヘアがくるくると靡いているふわふわ髪に、一部だけ髪の色をシルバー色に染めたウルフヘアと呼ばれるモノに、スリムな体型。そして、英語で書かれた白の文字のプリントがされてある黒のダボダボTシャツ。

 そして色白の煌めきが残る透き通る肌のその先輩は、皐月結衣さつきゆい先輩だ。

 

 「あぁ、これっすか。貸してたの忘れてたくらいでしたわ」


 「亮ちゃんのおかげで、講義のレポート作成になんとか間に合ったわ。ありがとな!」


 俺の貸したのは、英和辞書の教科書である。和訳などは勿論、それを使った問題や例文が書かれている物で、俺が語学の講義を受けているのに使っている教科書である。

 

 「結衣って本当に亮介君に色々手伝って貰ってるよねぇ」


 「亮介君はみんなに優しいよね。この前も私にジュース奢ってくれたし」


 女子の先輩や、同じゼミナールの子が俺の優しい体験談を語り始める。

 

 「いや本当そう思うわ。なぁ?智久」


 「…そ、そうだね…」


 門屋は細井の肩に手を置いて問い詰める。


 「え?智久もなんか手伝ってもらったん?」


 女子の一人がそう問いかけると、智久はため息を溢した後に小さく頷いた。

 

 「お金…」


 智久がぼそっと呟くように皆に言った。


 「うわっ!お金貸したの?他人に?」


 「…まぁ、困ってそうだったから」


 「アンタ他人にお金貸すってどんな神経してんのさ」


 「いや、まぁ今日返して貰うって約束したから」


 「それはそうかもしれないけど、他人にお金を貸すなんて信用出来る人にしか出来ないでしょ?」


 先輩の一人が、俺に畳み掛けるように詰めてくる。


 「まぁ、困ってる人がいる時は助けてやるって言うのが筋かなって。勿論、俺も馬鹿な事してるって思ってましたよ!でも、友達だし…」


 「いやいや、お金を貸し借りする友達とか仲悪くなっちゃう行動だし!」


 「なぁ?コイツは俺達よりも馬鹿かもしれんぞ」


 「なんだよ門屋。お前まで…」


 その会話を気まずそうに聞いている細井。その表情から察して、俺は会話を無理矢理辞めさせようとした。

 なんとか女子達と別れを告げた後、俺達はスポッチャに向かった。

 細井がなんかまだテンションが上がってない様子だった為、俺が慰めてやった。


 「まぁ、次から気をつければいい。ほら、もう全部忘れて遊びに行こうや!」


 そう言って背中を叩いてやった。

 少しは元気を取り戻した細井は、コンビニを見つけてはダッシュで駆けつけて、ATMまで向かった。

 戻って来た時には、左手に一万円札を握りしめ、こっちに見せびらかすように戻ってくる。


 「ハイ!この前の借りた分」


 「オッケー!じゃあ利子をつけてっと…」


 「いや、待って待って!約束は一万円だけだろ?」


 「世の中そんな甘くないんじゃあ」


 と、悪い顔をする俺。その横でまた笑っている門屋。


 「もう勘弁しろよ!」


 「じゃあ、その代わりとして今日の遊びの代金は立て替えて貰おうか?」


 「いや、借金返済してないようなものやろ!それ!」


 「まぁまぁ、とにかくツラ貸せや…」


 ノリで乗ってきた門屋も悪い顔で細井の肩を組み弄りを楽しむ。


 「お前はなんなんだよ!」


 ツッコんだ細井。


 「冗談だよ。一万円キャッシュバックして貰ったし、行くか!」


 そして悪い顔をやめた二人は、細井に肩を組んでスポッチャへ向かった。

 

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