真実 sideアゲハ
「総帥! これはどういうことですか!? カオスクリスマス事件とは! 一体何ですか!?」
フォースの悲惨な叫びが収められた動画は私が仕向けたスパイが撮影したものだ。
それを見た時、私は情に絆された。碌に仕事に手を付けず、フォースを、ユイの助けになりたいと知識を求めた。
カオスクリスマス事件。それはフォースの叫びに入っていた言葉であり、知る人ぞ知る噂みたいなものだった。私自身『そういう事件があった』ではなく『そういう噂がある』と認識していたのだが、どうやら間違っていたらしい。
テレビのニュースキャスターは意気揚々にカオスクリスマス事件の解説し、それは現実味を帯びている。私も個人でオーダーを調べ上げ、結果としてカオスクリスマス事件は実際にあったと分かった。
頭の中が真っ白になった。調べなければ良かった後悔してしまう。その方が幸せだった。
私はオーダーの何を見て来たのだろう。カオスクリスマス事件は極めて悪質で、人道に欠けている行為だ。とても軍がやるような行為ではなく、それこそ私が忌避感を抱くフリューゲルと似たような……
居ても立っても居られなかった。ユイや戦線のことを忘れ、私は火星へと向かった。
カオスクリスマス事件を、直々にアースリー様に問い質さないといけないと思ったのだ。そうしないと私はオーダーの正義を信じられなくなる。思い出深い組織である故に、それだけは避けたかった。
だから、こうしてアースリー様に訴えているのだが、アースリーは微動だにせず、仮面を被っているので表情も分からない。伝わってくるのは堅苦しい雰囲気だけだ。
「カオスクリスマス事件が本当に在った出来事だと知りました。何故ですか!?」
「……何故? 反乱分子を排除しただけだが?」
「これがオーダー軍のやることですか!? 虐殺じゃないですか!?」
「敵地に高性能爆弾を投下した。それだけの話……戦時中なのだから可笑しくないだろう?」
玉座に座っているアースリーは冷淡に語った。
「それでも、そのやり方はフリューゲルと同じです。私は納得できない」
「ならフリューゲルは合理的だったという話だ……そうだったな」
アースリーは急に思いついたかのように立ち上がって私に背を向けた。そして、そのまま数秒の刻が経ち――
「ユイ家の、アゲハの両親はカオスクリスマスで亡くなったのだな……」
訝しく思っていると、アースリーは此方に振り向いて言った。その発言は衝撃的なもので、唖然としてしまった。
頭の中に満たされていた不信感は弾き飛ばされ、心がその発言の意味を求めている。切羽詰まった私は直ぐにアースリーを問い質した。
「ど、どういう意味ですか? どうして私の両親が……」
「アゲハの両親はカオスクリスマス事件に巻き込まれたんだ。当時、ユイ家はディクラインと仲良くしてからな。我らオーダーからしたら要らぬ存在なのだよ」
「な、なな……どうして今になってそれを?」
胸の奥から熱い怒りが湧いてくる。今からでも総帥であるアースリーを殺したかった。憎かった。
私は両親との記憶があまりない。それでも両親が平和を望んでいたのは理解しており、オーダーで活動していたのを知っている。
それをアースリーは踏み躙った。
替えのない。唯一の両親だったのだ。
怒りの沸点を通り越し、寧ろ冷静を保っていた私はアースリーを睨みつける。どうして今になって真実を語るのか? 黙っていれば私の恨みを買うことは無かっただろう。
「ふふふ、こういうことだよ」
「なるほど」
アースリーはマントから取り出したのはライフル銃で、それを私に向けた。
「フリューゲルへの憎しみが薄れた君は用済みだ……と言いたいところだが、友人を殺すのは惜しい。それ故に、君には表舞台から絶ってもらう。もはやユイ家はオーダーには必要ないのだ」
「……最後に質問だ。総帥は戦争を望んでいるのか?」
「戦争を望む? ふははははははは!」
アースリーは珍しく哄笑する。変声機の耳障りな音が広間に響き渡った。
「闘争本能だよ」
「闘争本能?」
「そうだ。人間は誰しも闘争本能を秘めており、争うのは必然! 私はそれに従っているまで。何も可笑しなことはないだろう? 食欲が湧けば、それを満たすために何かを食べる。それと同じ行為だろう?」
「アースリー……貴方は狂っている」
「……そうだな。私は狂っているのだろう。だが、それがどうした? 私は、私の求める闘争を突き詰めるだけだ」
そう言い切ったアースリーは手を横に薙いだ。すると直属の部下たちが現れて、私は拘束される。
今、此処で死んだことになったのだ。抵抗はできず、ただ親の仇であるアースリーを睨みつけることしかできなかった。
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