【 悲愴 】
私は寝室の扉を静かに閉める。
そして、靴を履き、玄関を出ると、1階まで一度降り外へ。
しばらくしてから、また7階の彼の部屋へと戻り、呼び鈴を鳴らした。
何度も、何度も……。
何度押したかは覚えていない。
もう、何も考えられなかった。
何度目かの呼び鈴で、彼がようやく出てくれる。
そして、彼は驚いた声でこう言った。
「な、何だ……。美雪じゃないか……。ごめん、今日は疲れているから、明後日に……」
「もう、部屋へ入っているわよ。光輝さん」
「うわっ! 美雪! お前、いつの間に……!?」
彼が驚きながら振り向き、電気も点いていないリビングの入口に立っている私に気付くと、今まで聞いたこともない彼の慌てふためく声を初めて聞いた。
「光輝さん、今日は疲れているのよね?」
「な、何だ美雪! か、勝手に人の部屋の中へ入ってくるんじゃない!」
「あら、私たちまだ夫婦なのよ。夫婦だから、誰の部屋とかないんじゃないかしら?」
「だ、だからと言って夜遅くに勝手に入って来るんじゃない! 出て行け!」
「出て行け?」
そう言うと、バスローブ姿の女性が寝室から顔を出した。
「出て行くのは、あの彼女の方じゃないかしら?」
「ひっ!」
私が暗闇の中でその女性に指をさすと、彼女は恐怖のあまり両手で口を塞いだ。
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