【 シチュー 】


 人が落ちた翌日の夜、光輝さんから電話があった。

 もう一度、やり直したいと……。


「美雪、許してくれないか……? もう一度、やり直そう……」


 私は作り過ぎてしまった今日の晩ご飯のクリームシチューを見ながら答える。


「そうね。今日、あなたの大好きな野菜たっぷりのゴロゴロシチューを作り過ぎちゃったから、とりあえず持って行くね」


「あっ、あの野菜ゴロゴロシチューか。久しぶりに食べたいな。いいのか……?」


「いいわよ。持って行ってあげる」


 そう言って電話を切り、鍋に入った彼の大好きなシチューを持って7階へ。

 マンションの部屋の鍵は電子ロック式になっており、電子キーをかざすか、暗証番号の入力で鍵は開くようになっている。


 暗証番号は分かるが、一応、呼び鈴を鳴らしてみる。


『ピンポン♪』


 玄関のドアが開くと、久しぶりに彼の嬉しそうにしている顔を見た。


「あっ、美雪。ありがとう。重かっただろう? 鍋持ってあげるよ」

「ありがとう」


 今日の夫は、やけにやさしい。


「その袋も持ってあげるよ」

「あっ、この袋はいい。そんなに重くないから」


 私が鍋と一緒に持ってきたビニール袋に気付く。


「そうか。何が入っているんだい?」

「追加する具材が入ってるのよ。軽いから大丈夫」


「ああ、そう。じゃあ、寒いから入って」

「ありがとう。少し冷めちゃったから、もう一度、台所で温めるね」


 そう言って、持ってきたその野菜ゴロゴロシチューをキッチンで温め始めた。



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