二度と戻らない夏、けれど思い出は消えず

『神無し島』に住む幼馴染の少年少女達。とある夏の日、いるはずのない『八人目』がいることに気付いてしまう。増えたのは一体誰なのか、消えるべき人物は誰なのか。その謎と真相に迫って『悠久の木』を目指すうち、それぞれの内面が浮き彫りになってきて――。

作中でも言及されているように『スタンドバイミー』感のある青春物語で、中学生男女のひと夏の小さな冒険でありつつ、ラストには壮大な運命や衝撃の真実が待ち受けています。しかし各自の内面に抱えているものはどこまでも等身大であり、共感もできるような内容となっていました。
恋愛、進路、家庭、将来の夢……などなど、この年代の青少年達が抱える悩みや迷いといったものが非常に巧く表現されており、嫉妬心や擦れ違いも物語に対して効果的に作用しているのは、実にお見事だと思いました。
それでいて親友を想い合う心や、何があろうと決して離れることのない『絆』を感じ、切ない結末を迎えつつも、心から満足のいく読後感を味わえました。
作品全体に流れる――暑さや風や香りがイメージできるような――『夏』の雰囲気や、海や山といった島の景色の描写も素朴でありながら秀逸であり、そういう部分も含めて『夏の終わりの寂しさ』や『忘れらない夏の思い出』が描かれているな、という印象を抱くことができました。

そんな情調たっぷりな空気感の中で進む物語は、中盤以降で衝撃の事実がどんどん明かされ、ラストまで一気に駆け抜けてしまうようなパワーある展開で釘付けになりました。
ただミステリーものとして読んだ場合、『神』や『時間停止』の要素が出てくるので、個人的には前半を読んでいる間ずっと「どんな仕掛けや展開が待っているか分からないけど、神様パワーでどうとでも説明できちゃうんじゃない?」という思いが、頭の片隅に生まれてしまっていました。
なので夏南がどういう存在なのかをもう少しボカして引っ張ったり、あるいは逆に『願い』のルールを序盤から明確に提示したりなどすれば、「後出しの設定で辻褄を合わせられるでしょ」とか「神様がいるなら何でもアリでは?」といった印象やイメージを抱かせることなく、より多くの読者をこの魅力的な物語に序盤から惹き込めたかなと思います。
ファンタジックな要素があるミステリーものでも、工夫次第で充分に「ロジカルな作品だ」と見せることは可能だと思います。

とはいえ「そういう誤った印象や予想を抱かせてしまいそう」というだけで、実際の内容としては超展開やご都合設定が飛び出てくるわけではありません。そんな要素や『雑さ』は一切ありません。
構成としては非常に巧みで、少年少女達の内面が血肉の通ったものとして描かれ、切なさと爽やかさが同居した感動的なラストが待ち受けています。夏に読むのにピッタリな、オススメの作品です。

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