第4話 三夜と三夜の世界観

その頃、夏目家の台所では三夜が出版社から貰った高級な紅茶を淹れようとしていた

そもそも、雑な性格の三夜にはその紅茶の本領を発揮することはできないであろうが・・・


琺瑯の薬缶に水を入れ火にかける

三夜は生活音が好きだ

琺瑯の薬缶の蓋を開ける時に少し擦れたカシャンとと言う音、蛇口を捻るキュッとなる音、水が入っていく時の最初は薬缶の底に水が当たり跳ね返る音から、水が溜まるにつれてだんだん水域が高くなると比例して高くなる音


カチカチッとコンロの音がした後、微かにガスの漏れる音と匂いがした後ボッと青い火がつく


その一連の動作でも三夜は楽しそうだ


そんなことをしているときに三夜の前を1匹の金魚が通り過ぎた


三夜はその金魚の泳いで行く末を目で追ったが、すぐにアップルパイへと視線を戻しこれまた頂いた白地に青でデザインされた高級な銘柄の皿を2枚用意し、アップルパイの袋を開く


アップルパイはとても艶やかで袋を開けた瞬間にバターと林檎、シナモンの香りが漂い三夜の心を躍らせた

皿の上に大ぶりのアップルパイを乗せ、その横に銀のフォークを添えて満足そうにしている


それを木製の盆にのせた

美しいフォルムの皿に美味しそうなアップルパイ、見るからに高そうなフォークを乗せ、木製の盆・・・

そう、これが三夜だ


準備の整ったアップルパイを居間に持ってきた


漱石は私を撫でる手を止め三夜の方へ目を向け

『先生僕がやりますよ〜』と声をかけたが、三夜にあっさり断られ

また、私を撫で始めた


『夏目〜先生冷たいね〜』と小声で私に呟いてくる


なんとも哀れ也


台所に戻ると薬缶は蓋をカタカタ揺らし、注ぎ口からはヒューと音と湯気を出していた

皿と同じ銘柄のティーポットとティーカップを一つ、大きめのピンク色のマグカップを一つずつ並べ、先に湯を入れカップを温める

ティーポットの湯を抜き茶葉を入れ湯を入れたら茶葉を蒸す


がさつな三夜にしては手の込んだことをしている


2分ほど待ってティーポットの中をスプーンで人混ぜしたらふわっと紅茶の香りがたち、居間の方まで良い香りが漂ってきた


温めておいたティーポットとマグカップに紅茶を入れ、居間へ戻ってきた


『漱石〜

紅茶入ったからお茶にしよう!

今日はちゃんと淹れたから美味しいよ!』

三夜はとっても嬉しそうに紅茶を持ってきた

その顔はとても満足げで、私も漱石もその顔を見ただけで幸せな気持ちになるようだ


こっちへ向かってくる途中、三夜の足元がぐらついたが、なんとか持ち堪えた

『おっと!危なかった〜セーフ!』


『先生!大丈夫ですか?』

『大丈夫!大丈夫』


二人とも驚いたようだったが、丹精込めて入れた紅茶を溢さずに済んでよかった


そんな二人を私は横目に見て三夜の足元から台所へ金魚が泳いで行ったのを見送った





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