第11話

「どうしたんだい? そんなところに立っていないで座ったらどうだい? せっかくの休暇なのだから」

 昼食後、視界の端でソワソワとヴィクトリカを見ている舞弥に声をかけた。

 少し慌てて舞弥はヴィクトリカの正面に座る。


「おーい、マヤ、返事して」

 ヴィクトリカに視線をむけ、焦点を合わせることなく見つめてくる舞弥に声を掛けるが、屍のように返事がない。

 根気強く声をかけ続けているとようやく舞弥が反応する。

「え、ああ、うん。どうかした?」

「いや、なんでもないが、ボーッとしていたから少し気になっただけだ。もし疲れているのなら、ベッドで休んだほうがいい」

 僅かにベッドを強調して言う。たったそれだけのことで日々ヴィクトリカに調教されている舞弥は反応してしまう。

「…… ベッド」

 ヴィクトリカの予想通りの単語を切り取り頬を赤く染める。

「大丈夫か? 顔が赤いようだが、熱でもあるのか?」

 心配そうな表情を作りヴィクトリカは舞弥の顔を覗き込む。

 右手を伸ばし、舞弥の額に触れる。じんわりとした熱がヴィクトリカの掌に伝わる。

「だ、大丈夫だから。気にしないで」

「無理する必要はない。少し熱っぽいぞ」

「い、いや。それはそういうのじゃないから」

「…… そこまで言うのなら私からは何も言わない」

 ヴィクトリカは視線を落とし、用意していた魔法具の検閲を始める。

 舞弥は相変わらず朱がさす顔をヴィクトリカに向け、意識をどこか妄想の彼方へと飛ばしている。

 ときどき掘り出し物があるのか、ヴィクトリカは少し興奮気味に魔法具の検閲を進め、一箱目を全て調べ終えた。

 魔法具の鑑定が終わっても舞弥はボーッとヴィクトリカを見つめている。

 そのことをよしと思わないヴィクトリカが再び舞弥に声を掛け、肩を揺らす。

 覚醒し、自分の顔のすぐ隣にヴィクトリカの顔があることに驚いた舞弥は振り払うように寝室へと逃げていった。

 その際舞弥の耳が赤くなっていることをヴィクトリカは見逃さなかった。

 舞弥が寝室にこもって数分、ヴィクトリカは二箱目の魔法具の鑑定の手を止める。

 湿ったような声が寝室から漏れてくる。

 音を立てないよう席を立ち寝室のドアに耳を当てる。

 ヴィクトリカの予想通り寝室から漏れてくる音は舞弥から発せられるものだった。

 ニヤリと笑ったヴィクトリカは静かに寝室から離れ、ソファに腰掛ける。目を閉じ、柔らかい背もたれに身を預ける。

 ヴィクトリカが意識を飛ばさぬよう集中していると、キィと扉の開く音が鳴った。

 舞弥は赤くした頭を少しだけ覗かせ、部屋を見渡す。ヴィクトリカが眠っていることを確認し、気付かれないようゆっくりと足音を立てないよう気をつけて近づく。

 ソファにもたれ掛かっているヴィクトリカを舞弥は見下ろす。

 ゆっくりと顔を近づけ、自身の唇をヴィクトリカの唇に合わせる。

 しばらくして満足した舞弥は一度離そうと顔を引こうとする。

 油断し、防御が緩んだ舞弥にヴィクトリカの舌が侵入する。

 驚いた舞弥は逃亡を試みるがガッチリとヴィクトリカの腕に固定されたためそれは叶わなかった。長いようで短い間口内を蹂躙され、舞弥の顔は蕩ける。

「さて、少し放置しただけで寝込みを襲うような発情したケダモノにはキツイお仕置きが必要そうだね」

 ヴィクトリカは有無を言わせず舞弥を寝室に運ぶ。

 翌朝、二人は幸せそうな表情で眠っていた。

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