第15話 ナンバースリー

 一泊した旅館を後にして、ツアーバスに乗り込んだ。

 バスは兼六園けんろくえんを目指して走っている。

 「兼六園は『日本三名園』のひとつなのよ。『日本三名園』というのは、日本国内で景勝が優れた『日本庭園』、いわば『日本庭園』のナンバースリーなの。これから向かう金沢市の兼六園の他は、岡山市の後楽園と、水戸市の偕楽園かいらくえんが『日本三名園』の他のメンバーなの。」

 「そうなんだ。日本の大人の教養だね。日本の大人として、ちゃんと味わいたい景色だね。それにしても、今日も天気に恵まれたね。」

 「そうね。昨日の花火もすっごく綺麗だったけど、旅行が天気に恵まれるってだけですごく幸せよね。」

 「神様が俺たちを祝福してくれているみたいだね。」

 時々出る、拓斗たくとの純粋な言葉も、イケメンホストの口から出てくると、育子いくこは、ドラマのヒロインのような気分に浸れてしまうのである。育子は、幸福感に包まれ、ボーっとし始めた。


◇◇◇


 ツアーバスは兼六園に着いた。

 バスを降りると、ツアーガイドがツアー客に向かって言った。

 「ここから自由行動になります。集合場所は、ここになります。それではご自由にご観覧ください。」


 「これが、『加賀百万石かがひゃくまんごく』の歴史の文化遺産なのね。」

 「うわ~、ザ・日本庭園って感じだな。」

 「『日本庭園』のナンバースリーだもの。加賀藩主かがはんしゅが長い年月をかけてつくり上げた庭園なのよ。」

 「へえ~。日本情緒溢れるって感じだな。」

 兼六園の中を、二人はゆっくりと散策した。

 「あの大きな池を大きな海に見立てて、その中に三つの島をつくったの。『蓬莱ほうらい』『方丈ほうじょう』『瀛州えいしゅう』の三神仙島さんしんせんとうで、それらの島々には仙人が住むと言われているの。」

 「へえ~。あ、あれか。あの島に、仙人が住んでいるんだね。」

 拓斗は、無邪気な小学生の子供のように、旅の蘊蓄うんちくを吸収して感激していた。

 育子は、そのような拓斗の無邪気さが、たまらなく可愛く思えるのだが、どこか違和感も感じた。

 「あっ、仙人が出てきた!」

 そんなわけはないのに、拓斗はそこまで育子に合わせてくれる。優しい性分が過ぎるのだろう。

 「あはは。」

 拓斗と育子は、顔を見合わせて笑った。


◇◇◇

 

 兼六園の、美しい日本庭園を堪能たんのうした後は、石川門口から金沢城公園に入って散策することにした。

 「この『石川門』は、1788年に再建されたらしいわ。重要文化財なんですって。」

 「へ~。ということは、江戸時代に再建されたんだね。加賀って言えば、『加賀の一向一揆』だけど、室町時代の、確か1488年だったような・・・。」

 「拓斗、凄いね、年代とか覚えてる方なんだ!」

 「日本史は割と好きだったし、得意だったからね。88年っていうのがかぶってたから、思い出したんだよ。」


 二人は金沢城公園の散策を続け、『鼠多門ねずみたもん』と『鼠多門橋ねずみたもんばし』にやってきた。

 「加賀藩かがはん、と言えば、『前田利家まえだとしいえ』だな。」

 育子は拓斗が日本史好きであったことを、この旅行で知った。

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