第21話 よくある一つの結末

 白に微かな青が混じった雪色の花が咲き乱れる草原で、金色に輝く髪の少女が座り込み、何かを作っていた。

 少女のそばには一人の少年がいて、短い黒髪を風に揺らしながら、少女の手元を眺めている。


「でーきた!」


 輝く笑顔で、少女は作った花冠を少年の頭へ乗せた。


「とっても素敵よ、イグナス!」


 少女の言うとおり、少年の黒髪に雪色の花冠は、よく映える。


「僕には似合わないよ、ジェレーナ」


 花冠を作れない少年は、雪色の花を一輪手折って少女の耳元へと差し込んだ。


「おそろいね?」

「そうだね」


 微笑んだ少年がそろそろ帰ろうと告げて、指笛を吹いた。

 音に反応して、栗毛の馬が駆けてくる。


 一頭の馬に跨がった二人は、ゆっくり丘を下っていく。


「ねえ、イグナス」

「なんだい、ジェレーナ」


 後ろに座る少年へ体重を預け、少女は幸せそうに微笑んだ。


「わたくし達の結婚式には、この花の色のドレスが着たいわ」

「気が早いよ」

「あら、そうかしら? 決められることは早く決めておかないと」

「そういうものなのかな?」

「そういうものよ!」


 ころころ笑いながら話す少女。

 少女の話に、黙って耳を傾ける少年。

 二人が向かう先には、互いの両親が待っている。


「結婚したら、ずーっと一緒にいられるわ。イグナスが帰ってしまうと、毎回寂しいんだから」


 この頃に語り合ったのは、幼い子供が描く、漠然とした夢――。



   ※



 ウォルシュ子爵邸は今、雪色の花で埋め尽くされていた。

 それを行ったのは三男のイグナスで、長男と次男も手伝った。


 大量の花を見て、呆れ果てたのは子爵邸の女性陣。


「これは、いくら何でもやり過ぎよ」


 子爵夫人は息子たちの行動に頭を抱え。


「あなたがついていながら、どうしてこうなったのかしら?」


 長男の妻は、夫に苦言を呈した。


「……イグナス」


 三男の婚約者が、主犯格を仰ぎ見る。


「こんな中で同色のドレスを着たら、埋もれてしまうわ」

「庭を飾るんだ。敷き詰める訳じゃない」


 至極真面目に返答して、イグナスは、愛しい婚約者を抱き上げた。


「再会してから、私を抱き上げるのが好きよね?」

「見上げるのは首が痛いんじゃないかと思って。それに、君の瞳を間近で見ていたい」


 こつりと額を重ねられ、婚約者の頬が桃色に染まる。


「愛しているよ。もう、どこにも行かないで」

「抱き上げるのは、私を確保するという意味もあるの?」


 イグナスは否定せず、くつくつと笑った。


「まあ、あなたになら、囚えられていてあげるわ」

「俺の心は、今までもこれからも、君に囚えられたままだ」

「あら、それは私もよ。愛しているわ、イグナス。これまでも、これからも」


 人目も憚らず唇を重ねた二人を、子爵邸の人々が目に涙を浮かべて、見守っていた。

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