第12話 母の教え

「女、勇者を名乗る…勇者の子と、なぜ今になって名乗る?」


「すみません、話すつもりは無かったのです」


 淡々と打ち明けるシェリーの表情はどこか虚ろだった。


「…オークスレイヤーは関係しているのか?」


「特に関係ありませんが、同業者ではあります」


「同業者だと!?

 ゆ、勇者の子を名乗る者が傭兵だと言うのか!?

 そ、そんな馬鹿な話があってたまるか‼‼‼‼‼」

 

『GUUUoooooooooOOOOOO!!!!!!!!!!!』


 バンプの雄叫びが耳をつんざく。

 その必死さが伝わる行動はむしろ愛おしいものだろう。


「オーククラン‼百鬼夜行頭領フトウの右腕、バンプ‼

 ―――推して参る‼」


 バンプはオーク程の巨大な剣を振り上げながら迫ってくる。


「異種族イコール悪ではない…種族…難しいです、母様」


『UGYAAaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!』


 バンプの巨大な剣がシェリーを捉えたと思った瞬間、閃光が走りそれは吹き飛ぶ。

 それはシェリーのはるか後方で大きな地響きをあげた。


「オヤカタ!!」「オヤカタ!!」「オヤカタ!!」


「…ったく、危なっかしいよシェリー。考えるな、感じろ、だよ」


 今まで気配を消していたフィノがバンプの右手首を切り飛ばしていた。


「そうなのかな…」


「少なくとも、私達はこんな所では


「うん」


「ヒヒーン‼」


「ヨ、ヨクモオヤカタを」「オンナ、コロス」「コロス」「逃ガサナイ」


 周囲のオーク達は円を組みシェリー達を囲み、徐々にその円を狭めて来る。


「魔法はどう?」


「少し休めたからいけるかな」


 オークとの対話は情報収集と時間稼ぎ、それが目的…。


「母様…」


 シェリーは悲痛な面持ちで刺突剣スティレットを手に魔法陣を描き始める。


「ま!!まてぇぇぇい!!まてぇぇぇい!!お前たち落ち着け!!」


 バンプは左手で切断された右手首を押さえつけながら立ち上がり大声を発する。


「オヤカタ!!」「オヤカタ!!」「オヤカタ!!」


「お前たち武器をしまえ!そして円陣を解け!!」


「ナンデ」「アイツラ敵」「コロス」


「ええい!お前達より強い俺様がこのありさまだぞ!!無駄死にするな!!

 赤い女と緑の女、都合の良い話で悪いが話を聞いてくれないか」


 苦痛に顔を歪めながらも必死に仲間を庇おうとバンプは指揮官を務めていた。


「ヒヒーン!!」


「えー?あいつの話しを聞けって?

 ペドロは優しいなぁ…シェリー、とりあえず話を聞こう」


「わ、わかった」


「恩に着るぞ、緑の女」


「私はフィノ、赤い方はシェリー、馬はペドロだよ」


「ヒヒーン!!」


「ガハハ!そうか、失礼したぞ、フィノとペドロ」


「ヒヒーン!!」


「まず詫びよう。俺様の心の弱さが錯乱からの攻撃に至った経緯だ。

 右手一つで許して貰えないだろうか」


「えらく冷静になったもんだね」


「これ程失血してはな、ガハハハ!ガハ!ガハ!」


 緑の顔色が土気色になってきている、手当をしないといくら押さえていても失血死に至る傷だ。


「それでどうだろうか、オークスレイヤーの同業者という事はマーチャンの救援が依頼内容なのだろう?

 俺様の命と引き換えに百鬼夜行を退かせて欲しい」


「オヤカタ!?」「オヤカタ!?」「イケナイ!!」


 取り巻きのオークの反応からバンプは信頼されているという事が良く分かる。


「頭領はそれで納得するの?」


 腕を頭の後ろで組みながらフィノは気になる事をずけずけと話す。


「納得させてみせる」


「うーん、どうする?シェリー」


「ヒヒーン!!」


「えぇ!?また私なの!?」


「頼む、この通りだ」


 バンプは左手を右手首から離し、大量に出血しながら額を地面に擦り付けた。


「ま、まずはその傷をなんとかします!精霊さん、精霊さん!」


 シェリーはその場で素早く魔法陣を描くとバンプの出血は止まった。

 柔らかい皮膚が生まれ死を覚悟していたバンプの顔は再び緑色へと変わる。


「ぐ、情けを受けるとは…」


 額を上げたバンプの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。


「オヤ!!カタ!!」「オヤカタ!!」「良カッタ!!」


「シェリー、ちょっとサービスしすぎじゃない?」


 シェリーにだけ弱いフィノは不満そうに口を尖らせる。


「こ、これで良いんだよ!落ち着かないし!」


 フィノにだけ強いシェリーは頬を紅潮させ膨らませていた。


「ヒヒーン!!」


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