第11話 勇者

「母だと?マザーの事か?…ガハハハハ!」


「そうです、私の母は勇者なのです。その教えを思い出していました」


「ちょっと待て、勇者だと?あの伝説の?」


「ええ、あの伝説の」


「勇者の娘…それで大魔法使い?」


「そう、育てられました」


「ガハ…」


「オ、オヤカタ」「オヤカタ」「オヤカタ」「オヤカタ」「オヤカタ」

「オヤカタ」「オヤカタ」「オヤカタ」「オヤカタ」「オッ、オヤカ」


 一斉にざわめき出すオーク達。


「ええい、静まれ!

 お、女。それは、そ、その昔。

 神が世界を捨てたとされた時に流行ったお伽話の勇者か?」


「ええ…」


 ―—――伝説の勇者のお伽話。

 

 この世界はある女神様と女神が愛した人により造られた。

 人は神への愛で、世界を繁栄させより良い世界を目指した。

 

 争いが無く、飢える事も無く、誰もが豊かで暮らせる世界を。


 人は神に願った。

 世界を豊かにするための種族を。

 神はそれに応え、人以外に様々な種族を増やした。

 それぞれ得意とする事が違う種族は協力しあう事で世界を繁栄させた。


 女神ベルフェは世界の繁栄に満足し、始まりの人アークを愛した。

 穏やかな時が流れ、アークは寿命を迎える。

 ベルフェはアークを失った悲しみに耐えられず突如として世界から消えた。


 世界を調整していた二人を失った世界は混乱し、

 これ以上失わない為に数多くの種族は支配権を求め争う事となった。

 強者が弱者を支配し、種族は女神の威光の前に隠していた本質を露わにする。

 豊かな生活を望み、奪い合う世界へと変貌する。


 数ある種族は戦い、傷つき、疲弊し、呪い、恨み、世界を憂いた。

 世界が怠惰で好色な世界に染まろうとしていたその時、ある噂が流れた。


 ―――――勇者の存在―――――


 世界が混沌とした時、女神が勇者を遣わし世界を救うと。

 勇者に世界を浄化させると女神がアークに話していたと。

 出所の分からないその話は瞬く間に人々の間に広まる。

 力なき種族の間では特にそれは根強く広まる。


 それは希望の失われた世界で唯一の希望となる。


 しかし、勇者が現れる事は無かった。


 勇者の話はそれでも語り継がれた。


 親から子、そしてまたその子へと。


 力なき者達はいつの日か世界が変わる事を願い、勇者を語り継いだ。


―――――――――それが勇者の伝説の勇者のお伽話。

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