第10話 百鬼夜行

「女!!何を言ってるのか分かっているのか!?」


 オークスレイヤーの名を出したシェリーはオーク達から視線の集中砲火をあびる。


 周囲の視線はシェリーひとりに向けられた。


「バンプ様、誤解しないで下さい。

 『ソードマン』の団長、オークスレイヤーは私が殺したい相手の1人なのです。

 敵対しているあなたがたなら心当りが無いかと思い、こうして空から降りてきたのです」


 オーク達の明確な殺気は人間から出るとは考えられない言葉であやふやなものへと変わっていく。


「女、人間だろう?何故お前がオークスレイヤーを狙う」


 シェリーは不敵に笑い言葉を続ける。


「オークスレイヤーは私から大切なモノを奪いました。

 奪い返して殺さねば気が収まらない程に奴が憎いのです。

 つまり私は貴方がたの敵ではなく、仲間にして欲しいと思っているくらいです。

 居場所を知っているなら教えて頂けませんか?」


  本当の事のように嘘をつくシェリー。

  頭をボリボリきながらバンプは眉をひそめる。


「ふうむ、簡単に信じられる話しではないぞ。

 そもそも空から降りてきたというのはどういう意味だ」


「こう見えて私は大魔法使いなのです。

 空を飛べる飛翔魔法を使用してここに降り立ちました。

 飛翔魔法を操る者の力量は貴方程の方ならおわかりでしょう?

 敵対するよりも協力しませんか?」


 シェリーは真実と嘘を混ぜながら会話を構築してオーク達の殺気をそらす。


「ハッ!!そんな馬鹿な話を簡単に信じられるものか!」


 バンプは怒気を発しながらシェリーを威嚇いかくする。


「オヤカタ、おれ見た」「オレも」「オレも」「オレも」


 次々に周囲のオーク達が馬が降りてきた様子をバンプに伝え始める。


「オヤカタ、こいつらマーチャンの連中に矢を撃たれてた」


「…ううむ、お前達がそう言うなら本当なのだろう。

 女、信じよう!俺様は部下を信じるぞ!ガハハハ!」


「ありがとうございます」


 シェリーの嘘が取り巻きオーク達の目撃証言で通った。

 人間にその姿から忌み嫌われるオーク族の意外な一面を見た。


「ガハハハ!あとでフトウ様に紹介しよう。

 それでオークスレイヤーの居場所だったな。女、運が良いぞ。

 ヤツは俺様達の宿敵だったが、昨日捕らえたところだ!ガハハハ!」


 バンプは警戒心を解いたのか自慢げに答える。


「まさか、あれ程の猛者もさを殺さずに生け捕りなどできるのですか?

 それに…なぜ殺さなかったのですか?」


 オークスレイヤーの事は全く知らないシェリーだったが、オーク達に華をもたせるように大げさに振る舞いながら疑問をぶつける。


「ガハハハ!俺様達にはできるのだ。

 お前はヤツを恨んでいる者が亜人に多いのは知っているか?」


「亜人からもですか?聞いたことがありません」


「ヤツは人間だが俺様達の天敵といえる程の強者だ。

 ヤツがオーク族を狩ればオーク族が統べていたいた場所で新たな覇権争いが生まれ他の種族の戦が始まる。

 少数で各地に散らばっているオーク族は奴に相当数殺された結果、統べていた場所は当然争いに明け暮れる事となる。

 被害が増えるに連れ各地のオーク族は身の安全のため一つのクランへとまとまっていった。それが『百鬼夜行』の始まりだ。

 更に争いに巻き込まれぬ様に俺様達を頼ってゴブリン族、コポルト族といった他の種族も加わり始めた。

 オークスレイヤーは俺様達を狩ることで新たな争いの火種を作り、その被害者の亜人達から秩序を乱すものとして恨まれるようになった」


「オークスレイヤーが『百鬼夜行』の切欠…興味深いですね」


「俺様達はこれまでに殺された同胞の恨みは深い。

 時間をかけ苦痛を味合わせてからオークスレイヤーを殺す事を願う。

 だからまだ生かしてあるのだ。ガハハハハ!」


 腕組みしながら語るバンプは『百鬼夜行』の生き証人なのだろう。

 オークと人間の交流は考えられない類のものだが、共通の敵オークスレイヤーを通して交流が生まれている。


「オークスレイヤーを捕らえられた理由。

 もしかしてゴブリン族とコポルト族にあるんじゃないですか?」


「ガハハハ!さすが大魔法使いと言うだけあるな。

 俺様達のクランには今ではゴブリン族とコポルト族の魔法使いメイジがいる。

 それをヤツは知らなかった」


「人間より肉体的に優れているオークが他種族の魔法で更に強化…」


 全く侮れない事態に陥っていた。

 オークスレイヤーが生け捕りにされたというのも理解できる。


「もしかして、『百鬼夜行』の規模が大きくなった事で『マーチャン』を狙っているのですか?」


「あん?いきなりどうした?もちろんそうだ。

 何しろ所帯が大きくなれば食い扶持も多くなるからな。ガハハハ!」


「…困りましたね」


「何が?困るのだ?」


「いえ、母の教えを思い出していたのです。

 こうして体験してみると、なかなかどうして」


 ――――――少しでも情が移ると、本当に困る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る