第2話

 私とシェリーとメイソンの三人でご飯に行ってから一ヶ月後。

 つまり婚約破棄を受け入れてからも同じくらいの期間が経ったある日、メイソンから二人きりでご飯食べに行こうぜ、と誘われた。

「二人っきりって、久しぶりだね」

「ああ」

 私はジェダインと付き合ってから1年経っていたから、メイソンとご飯に行くのは、1年以上前だった。




 先に店に着いた私はぼーっとしているけれど、メイソンはなかなか来ない。こんなに遅いなら本でも持ってくればよかった。

「すいません。カモミール一つ。あと、サンドイッチをください」

 私は先に注文しようと決めた。メイソンは文句を言うかもしれないが、いつものように笑って許してくれるだろう。

(いつものようって言っても大分昔か)

 私は暇だったので、周りの客を見渡す。すると、やけに声がでかい二人組の客がいた。

「王って今危篤らしいぜ?」

「じゃあ、ウィリアム王子が王になるのか?」

「いや、エリザベス王女も王の座を狙ってるらしいぜ」

「へー、でも、エリザベス王女って後妻の娘だっけか?」

(下衆な話)

 私は今回結婚しなかったけれど、結婚して離婚したら後妻や周りからジェダインの前妻なんて言われたのだろうか。そう考えると気持ち悪いから、そうなる前で良かったのかもしれない。

(もう、当分恋はいいかな?)

「お待たせしました、カモミールとサンドイッチ、それとデザートです」

 待ってない、全然待ってない。ウエイターが料理をすぐに持ってきてくれた。

「あの、デザートは頼んでないんですけれど?」

「店長からのサービスです」

 私がキッチンの方を見ると、店長が何かを作りながら、親指を立ててグッドポーズとウィンクをしてきた。

(店長・・・素敵)

「お待たせ」

「うん、大変待った」

「おっおう」

 いつもなら、笑顔でごまかすメイソンが緊張しているらしく素直に私の言葉を聞いた。実に珍しい。

「とりあえず、何か頼んだら?」

「おっおう」

 私がメニューを彼に渡すと、入隊式に出る新兵のように緊張しているメイソンが目を動かしているけれど、あまりに目が右左に動いていて、読んでいるようにはとうてい思えなかった。

「とりあえず、サンドイッチは頼んでおいたから、食べてね」

 私はシェアしようと先に注文しておいた机の上にあるサンドイッチを指さす。

「ありがとうなっ」

 なんだろう。メイソンは語尾を強めて喋っている。

「ねぇ、メイソン」

「なんだ?」

「私がしばらくしないうちに綺麗になり過ぎて緊張している?」

 私が昔のノリで冗談を笑いながら言う。

「あぁ」

「えっ?」

「ジャンヌは綺麗だ。ずっと思っていたんだ」

「メイソン・・・・・・」

 

 カランカラン

 

 私とメイソンが見つめ合っている中、鳴った鐘は結婚式場の鐘のような幸せの音ではなく、ばつが悪い来客者を告げる扉の鐘だった。

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