「ありえない、ありえないっ……」


 カイジンが口元を抑えて放心状態になりながら呟く。その手は震えており、どうやら、カイジンが仕組んだわけではなさそうだ。


 ウィン王子の手札を開けてみると、ウィン王子の手札はダイヤのロイヤルストレートフラッシュ。

 絵柄はダイヤではあるもののポーカーの役の中で一番強いと聞く手札。

 やはり、私に勝っていた。

 にもかかわらず、わざと負けを宣言していた。


「……なぜなんです?」


 私がウィン王子に尋ねると、ウィン王子は目線をその5枚のカードに降ろし、


「ボクは勝つカードが来てしまう」


 と真顔で呟いた。

 ウィン王子は本気だ。


 カイジンは「嘘だ、嘘だ……」と言って、驚いている。まるで、幽霊か化け物か、はたまた神様とであってしまったかのように。「王子」に選ばれる存在というのは、私も信じがたいが、それらと同格なのかもしれないと受け入れている自分もいた。


「さっきのカードは嬉しかったんだ」


「えっ?」


 王子の目線の先を追うと、私の手札。ハートの5のストレートフラッシュだった。


「久しぶりにキングを引かなかった……。それにハートだったしね」


 それは何かの暗喩なのだろうか。私には王子であるがゆえの苦悩や、王子であるがゆえに見える世界がわからなかった。


「ボクはキミのことが好きだった」


「えっ」


 私は急にウィン王子に告白された。そして、「好きだった」と過去形だった。

 それが少しショックだった。


「だから、キミを手に入れる戦いでハート、しかも1から始まる数字なんて。何かが始まりそうな感じがして素敵じゃないか」


「その、私を好きだった、と言ってくださったのは、その手札を引いたからですか?」


「いいや。もちろん、カイジンがキミに婚約する前からだよ」


 ウィン王子はカイジンを横目で見上げると、カイジンは気まずそうな顔した。そして、執事のセバスがカイジンを殺気が籠った目で見つめていた。そして、唇を震わせて重い口を開く。


「その男は……ウィン王子から、クレア様の調査を請け負ったにも関わらず、あろうことか……」


「止さないか、セバス。それとも、主人に恥をかかせたいのかい?」


 ウィン王子が少し照れたような苦笑いをして、セバスを見ると、セバスは「失礼いたしました」と深々とお辞儀をして、口を閉ざした。


(えっ、どういうこと? 私ってウィン王子に狙われていたってこと?)


「どんなにいいカードを持っていたって、勝負を申し込めなかった僕がいけない。まぁ、いいカードと言っても、他の人が言うだけで、僕自身は自由に身動き取れないカードだし、本当に欲しいものが手に入らなければいいカードと思わないけどね」


 そう言ったウィン王子はダイヤのキングを見ていた。

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