第10話

 富も名声も持っているウィン王子。

 満たされているその瞳は全てを受け入れ、全てを見透かしてそうだった。


「私が負けていたら、どうされたんですか?」


 私が尋ねると、ウィン王子は少しだけ考えて、


「それは言いたくないかな。ただ、もうボクはキミのモノだ。言えと言うなら言おう」


 と意地悪な言い方をしてきた。


「やめてください。私は人をモノ扱いしたくはありません」


 私がそれ以上聞けなくなるのを見越していたとすれば、ウィン王子がなぜ言いたくないのか、かなり気になるけれど、ポーカーが上手であろうウィン王子であれば、言わないのも嘘を付いた時のカモフラージュで、本当は大した理由ではないのかもしれない。


 私はどうしたらいいのかわからず、ウィン王子は自分から何かをしようと思っていない様子でしばらく沈黙が再び訪れる。こんな時に喋って間を埋めて欲しいカイジンは私から自分のカード配りに酔いしれていた。

 

(カイジンはウィン王子に何のカードを配ったのだろう?)


 私はカイジンが私の味方のふりをして、本当はウィン王子の味方なのでは、と疑った。なぜなら、ポーカーは手札の強さに応じて、支払いが発生するのではなく、どんなに相手が強くても、自分が勝負に乗らなければ、被害は最低限で済む。だから、カイジンからの作戦だって、私がオールインしても、ウィン王子が乗ってこなければほとんど価値がないし、一発勝負ではなく、カイジンが複数回私に強い手札を渡したとしても、私が何度も勝てばウィン王子も怪しむだろう。だから、もしがっつりいかさまをするのであれば、いつ負けて、いつ勝つかのサインでも決めておかなければならない。


 だからウィン王子がオールインしたくなったカードというのがいかほどのものなのか気になる。

 だって、さらに言えば、カイジンがかなりいい手でオールインして負けており、その人をディーラーに採用して、そのディーラーと次にプレイヤーになる私がこそこそ話をするのを許すなんて正気の沙汰じゃない。


「開けてもいいですか」


 私はウィン王子のカードを指さして、彼の顔色を見る。


「それは、マナー違反だ。次の勝負の伏線にもなるしね」


 ダウト。

 次の勝負、そんなもの命をお互いを賭けた後にあるわけがない。


「ウィン王子……本当は勝っていらしたのでは?」


 私は少し強めの言葉でウィン王子に質問した。


「なに、馬鹿なことを言っているんだ」


 カイジンが絶対ありえないと言う風に私を呆れた目で見てくる。ただ、この男はポーカーで負けた男。ポーカーのような心理戦で相手にわざと負けることがあってもおかしくはない。もちろん今回はウィン王子がオールインして勝っていたにも関わらず、負けを宣言するのは正気の沙汰ではないけれど、このわずかな時間の中で、ウィン王子であればありうるのではないかと、私は思った。


 私はカードに手を伸ばすけれど、ウィン王子は顔色を変えないし、それを咎めも、止めようともしなかった。

 こんな感じで違ったら、かなり恥ずかしい。

 私は一枚ずつ、カードを開ける。

 

 ダイヤの10。

 ダイヤのジャック。

 ダイヤのクイーン。

 ダイヤのキング。

 ダイヤの……エースだった。


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