第16話 七海の愛と美少女の到着タイミングが重なった
新上はリビングのソファーに寝転び、壁に掛かった時計に目を向けた。
時刻は十九時三十分。
「うわぁ~、まだ時間全然あるじゃん!」
女の子は身支度に時間がかかるとよく世間で言われる。
事実その通りだと新上は思っていた。
元々の予定では十九時過ぎに詩織と理沙が新上家に来る予定だった。
しかし、それ以外にも理由があるときもあるってのが現実なのではないだろうか。
『ごめんね、ちょっと遅れそう。二十時までには行くから』と連絡がきたのだ。
それも二人から。
なんとなく、身支度ではなく、別れてから二人で帰り道どこか寄り道したな?
と、察したが急かしても仕方がないと考えた新上は『了解!』とだけ返信をした。
だって一人だけ浮かれてます。
とか男として格好悪いじゃないか。
そんなわけで格好付けたことを絶賛後悔中の男は母親がよく飲んでいたスピリタスを入れたコップを遠目に見る。
少し前、時間潰しにスピリタスを飲んだわけではない。
サプライズイベント的な何かでちょっと火が出るお水として火を付けたり消したりしてマジックショーでもできないかと試行錯誤したのだが、どうやら新上には演出家として才能がないことがわかった。
どうしても○○○○動画で見たように上手く演出ができないのだ。
良い子は絶対に真似して遊んではいけない。
危ないから。
「そう言えば、小さい頃聞いたことがあるな」
新上は天井を見上げ、まだ小学生の頃に両親から聞いた話しを思い出す。
「自分で書いた脚本を使って父さんを落とした結果優斗が生まれたって言ってたけどアレ本当なの?」
本当に血の繋がりがあるなら、演出家としての才能も遺伝し『発火する火』のマジックショーぐらいなら簡単に出来そうな気がするが、と。根拠のない妄想をしてみる。と、言うか『発火する火』のマジックショーの脚本を書いて欲しいと少し期待してみるが……断られるのが目に見えていた。
「流石にそれは……無理か、あはは」
後三十分暇だなー、と思った新上はスマートフォンを手に取って適当に本でも読もうかと無料閲覧できる小説サイトにアクセスした。
「相変わらず凄いよな~【白雪七海】と言うおばさん」
実の母親なので手加減はしない。
白雪七海は女子高生時代から若手作家として活躍し、今でも大人気小説作家の一人である。結婚して苗字が変わるもペンネームはそのまま使っていた。なんでも思い出のある大切な名前だと昔聞いたことがある。
英才教育として小説を小さい頃よく書かされていた新上は少し皮肉を言ってみた。
姉ではなく、なぜか弟だけが英才教育の対象とされたから。
小さい頃は遊びたくてそれが嫌だったのだ。
今にして思えば、姉のように器用じゃないからこそ心配されていたのかもしれないとなんとなく気持ちがわかる。もしかしたら違う理由だったのかもしれないが。
「な~にが、いつでも自分で稼げる能力は持っておいた方がいいだよ。息子が恋愛で大ピンチなんだから少しは相談にのってくれてもいいじゃないか」
だったら連絡しろ。
心の中にいるもう一人の新上優斗が囁くも、絶対に笑われると思い断念する。
白雪七海が書いた作品一覧を適当に閲覧していると、
「はっ!?」
驚く作品を見つけてしまった。
「これって……俺の?」
――
「正解! みたいなノリはいらないから! てか間違いないよな……これ?」
――
「じゃなくて! 本当に俺のなのか?」
――
「じゃなくてだよ! なんで母さんのサイトに俺が昔書いた作品が当たり前のようにアップされているのかって話し!」
――
「ええい、だr……あっ、なるほど。二十時までだから来たのか……」
心の中で、申し訳ございませんでした!!!
一礼してから急いで玄関へと向かう新上。
「はい、はい~、今行きま~す!」
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