第5話ピンチヒッター

いつもの様に松の湯ののれんをくぐると、びっくりした。

番台さんが、島田のじいさんでなくジェット水流で肛門を洗う溝口さんだったからだ。

「やあ、西野君」

「なんで、溝口さんが?」

「島田さんが入院しちゃって、奥さんから頼まれてね。小遣い稼ぎに番台やってんの、最後は1人で風呂入れるんだ。9時までだからねここは。掃除は島田さんのおこさん3人の仕事」

「ま、頑張って!」


今日はやけに風呂場が混んでいた。

部活帰りの学生達が15名風呂に浸かっていた。

身体を洗っている学生の横に座り、

「君たち何部?」

「サッカー部です。遠征できました」

「だから、みんなガタイがいいのか~、頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」


西野はジェット風呂に浸かった。水流に肛門を当てた。よし、今日はキレイに流したぞ。上がると同時に学生が2人ジェット風呂に使い水流を腰に当て筋肉をほぐしていた。

オレが肛門を洗った事を知らずになあぁ。


次はサウナに入った。汗を流して水風呂に飛び込む。これを、三回繰り返した。

学生たちは脱衣所で扇風機に当たったり、全裸ではしゃいでいた。

だが、急におとなしくなった。

サングラスに金のネックレス、隠しきれないタトゥーが見える若者3人が入って来たからだ。彼らが服を脱ぐといよいよ、服を着始めて脱衣所を出でいった。


「西条さん」

「お、西野の旦那」

「この前はありがとうございました」

「いいの、いいの。しかし、西野君は酒強いね」

「いえ、自宅でリバースしました」

「あら、そうなんだ。若い衆はあの店のトイレで全員が吐いたよ!ちなみに、俺も」

「高い、焼き肉がもったいないですね」

「ね。そうだよね。また、いつか飲もうや」

「はい」

西条は若い衆を連れて、風呂場に入っていった。


1週間ご無沙汰して、松の湯に向かうとシャッターが閉めてあった。

そこには、あろうことか最悪の張り紙が貼られていた。


【忌中】


西野は暫く、動けなくなった。

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