第8話 少女の日常

 チュン チュン チュン


 カーテンからの陽光とスズメの鳴き声に囁かれ目を覚ました。部屋は全体的に白を基調とした、デザインで清潔感のある印象が見受けられる。また、所々にアニメのポスターやフィギュアが飾られていた。


 歩美は、目の前にいる茶虎の猫に気づいた。


 「おはよ。まるちん」


 まるはぺちッと自分の前足を歩美の額にのせた。

 

 「起こしに来てくれたの?」


 そう言うと、まるちんはベットから飛びおりて、トコトコと部屋を出ていった。ドアが開少し空いている。



ベットからゆっくり起き上がると、重たい目をこすりながら階段を下りて洗面所に向かった。顔を洗い、歯磨きをして、身の回りの身支度を整える。



 食卓のあるリビングに着くと、早くも父の神薙賢一かんなぎけんいちが先に朝食をとっていた。オールバックな茶髪に綺麗に整った髭。スートの上からも分かる逞しいい体で雰囲気もダンディーな感じでまさに大人なの男性だ。


 「おはよ」


 「うん、おはよ」


 歩美は、席に着くと前に置かれている、朝食に箸を伸ばした。


 「お母さん、朝ドア開けた?」


 「いいえ。まるこが、ドアをカリカリしてるの見たわよ~」


 最近の目覚まし係はまるちんで、時間になると自らドアを開けて歩美を起こしに行くのだ。いつもは顔に乗られてその重みで起きるのだが、今日は先に目が覚めていたせいか肉球でのあいさつだ。ちなみに猫の本名は”まる”である。


 台所から出て来たのは、神薙恵かんなぎめぐみ。年齢は38歳であるが、どう見てもその容姿が38歳に見えるわけがない。むしろ20代代後半ぐらいの容姿だ。たれ目に茶髪で髪を低い位置で束ねていて、口元にほくろがある。

 身長も平均よりも高く、賢一も180㎝であることから、歩美も二人の恩恵を受けている。一番はエプロンが張り詰めるほどの実った二つのスイカだろう。体格も母親譲りであることは、誰が見ても分かるほどだ。


 歩美は食べ終わると、食器を片付けて玄関に向かった。


 「はい、お弁当」


 恵は、二人に弁当箱を渡した。


 「今日はお母さん、夕方バーゲンだから帰ってくるの少し遅くなります」


 「はーい」


 「ああ、わかったよ」


 恵は、じーっと賢一を見つめると何か物欲しそうに呟いた。


 「何か忘れ物はないかしら?」


 賢一はすぐに察すると、恵の頬に手を当てた。二人の顔どんどん近くないく。


 行ってきま~す、そう言ってこの場を離れるべく歩美は一人家を後にするのだった。






 教室に着き自分の席に着くと、鞄から小説を出し朝の時間を楽しむ。

最近は、ミステリー系が流行りらしい。


 しかし、その楽しみに介入するかのように、周りに人が集まってくる。


 主に、性格が明るめな人達だ。その中には、あの学校で有名な阿久津 稜あくつりょうもいる。歩美は、本をササっと机にしまう。



 ...はぁ、後で読めばいいか...


 内心ため息をしつつ彼らの会話に参加するのだった。


 会話のさなかに、歩美はちらっと別の方に視線を向けた。そこには本を静かに読んでいる、男子の姿があった。


 「・・・」


 「どうかした?」


 「う、うん。なんでもない」


 他の子に、悟られまいとはぐらかすのだった。

 

 


 お昼休みになると、人込みをなるべく避けて、空き教室でご飯を食べる。目の前には、クラスメイトの藤田明恵ふじたあきえがいた。歩美の数少ない友達と言える人物である。パッチリとした目、パーマのかかったセミロングの金髪に、濃い目の化粧。鼻は高く、薄いピンクのリップをしてる。ブレーザーもある程度着崩している。誰がどう見ても美少女と言える容姿だ。


 「それでさ、まゆっちがさ~.........聞いてる?」 


 「うん。聞いてるよ」


 「そうは見えないんだけど」


 確かに、先ほどから歩美の目線は明後日の方向に向いている。


 「さっきから、ボーっとしてどうしたの?」


 「いや、えっとさ。前に話したあれ覚えてる」


 「あれ?」


 明恵は、少し考えたのちハッとして歩美に詰め寄った。


 「で、結局どうなったの」


 「まだ、その.......誘えてなくて////」


 歩美は、かぁぁっと顔を赤らめてモジモジと返答した。


 「何やってんの、もう。早く言ってきちゃいなさいよ」


 「で、でも」


 「そうしているうちに卒業して、はい駄目でしたーなんてなったら後悔するの歩美なんだよ」


 「う、うん」


 明恵は、歩美から顔を話すと少し呆れたように吐き出した。


 「あんたって、普段はみんなとなら普通に喋れるのに恋愛になったら、本当にヘタレになるのね。3年間も片思いだなんて」


 「そうなんだよね。確かに皆とは何も気にせず話せるんだけど、彼はなんというか、その...特別だから////」


 キャーっと余りの 恥ずかしさで歩美は、両手で隠した。いつも、キリッとした佇まいはどこにもなく、そこには一人恋する少女がいたのだ。



 「でも、何で篠崎なの?」


 「なんで?」


 「確かに、彼は顔に関しては悪くないんだけど。でもほら、他にイケメンとか、いっぱいいるじゃん。阿久津とか久我とかさ」


 それに対して、歩美は首を横に振った。


 「そうじゃないんだよね。私と篠崎君は、その似ててるんだと思うの」

 

 水筒に入った、お茶を眺めながら呟いた。


 「と言うと?」


 「私ね、中学の時ね。いじめにあってたんだ」

 

 「え、そうなの?」

 

 まさかの情報に、明恵は驚いた。

 

 「うん。いろいろあったんだ。だけどさ彼は、それを体張って守ってくれたし、学校側にも相談を持ち掛けてくれたんだ」


 「へ~、いいやつじゃん」


 「とても嬉しかったし今でも感謝してる。それがきっかけで話すようになってさ趣味の話とかで盛り上がっちゃって、いつの間にか仲良くなってたの」

 

 「趣味って言ったら歩美は、アニメとか漫画好きだったもんね~」


 そうなのだ。歩美は、外側は清楚系の美少女であるが中身は生粋のオタクであり、部屋のロッカーや棚はグッズや本で埋まってしまっている。最近は、自作で漫画も描き始めているのだ。


 「うん、でも私が篠崎君を好きになったのは実はそこだけじゃないの」


 「何々?」


 明恵は、興味深々で耳を傾けた。実際、学校で1番人気のある美少女の恋愛話なんて、滅多にお目にかかれる事はないのだから。


 「私と彼って少し変わってるの」


 「?」


 「私ってさ、人のこと好きなんだけど、興味がないんだ」

 

 「へ~」


 「なんていうかその、会話続けるのが苦手でさ、それで中学性の時と友達殆どいなかったんの。それである日気が付いたの、喋っている相手に興味がないから会話が続かないし質問がでなきないんじゃないかって」


 「じゃあ、私は?」


 「明恵ちゃんは、大好きな友達だよ」


 「え~何それ。嬉しい////」


 明恵は、照れくさく手を振りながら返答した。


 「でも、人との会話やコミュニケーションは好きなんだ。そこがさ、彼と同じだったの。矛盾してるけどそんな感覚なんだ」


 「いいな~、そういうの。自分と似た人。雰囲気を好きになったんだ」


 「うん、そうなの。だから振り向いてほしくてさ、ファッションとかメイクを勉強してたらいつの間にかこうなってたんだ~」


 ...いいな~。私も恋愛したいな~...


 明恵は、パックの野菜ジュースに口をつけた。何故かわからないがいつもより少し甘く感じるのだった。


 「それに、イケメン過ぎると私の場合は観賞対象になっちゃうんだよね」


 「あ!それはわかる!なんか、こう...自分の枠から外れちゃうよね~」


 「うんうん」


 「と、そうじゃなくて。話が脱線しちゃった」


 忘れてたと、明恵は話を元に戻す。

 

 「でもさ、私気になったんだけど、篠崎とは今でも会話してるの?」


 ギクッ


 歩美はビクンと体が揺れた。

 

 「図星ね」


 「前は、LI〇Eでやり取りしてたんだけどさ、段々、その...やらなくなっちゃって。お互い話しかけづらい雰囲気になっちゃったから」


 「じゃあ、尚更まずいじゃん」


 「どうしよう」


 彼女はうるうると涙目になりながらじっと見た。


 「思い切ってさ、バンジーしてみたら?」


 「バンジー!?」


 「多分、今後話せる機会が減るとするならば、今やる方がいいし。なんなら当たって行った方がいいんじゃない」


 確かにもう3年の夏だ。卒業まで4分の1経過してしまったのだ。さすがに急がねば、受験やら就職やらで時間がみるみる過ぎ去ってしまう。


 「当たれば、歩美の場合99%の確率で行けると思う」


 「何でそう思うの?」


 「女の勘ってやつだね」


 歩美は少し不安そうな表情を浮かべるが、覚悟が決まったのかすぐに顔つきがやる気モードへと変わった。


 「分かった。やってみる」


 歩美はフンっと体に気合と勇気を入れた。


 「ガンバ」


 明恵はそう言って、棒付きの飴を加えながら微笑んだ。


  ...これだと、あっちも同じ状況かもね...


 そう思いつつ、明恵は心ら親友を応援するのだった。



 



 日曜日の夜、家族3人で夕食を取っていると、テレビからニュースが耳に入った。


 『昨夜起きた茨城県の海岸沿で起きた旅館の爆発事故ですが、未だに依然として消火活動が行われております。爆発の影響で周辺の住宅街にも大規模な火災が広がっており、消火にはまだ時間を要するとんことです。これによる死傷者の数は、40名死亡、75人がけが、行方不明者は旅館そして周辺の住宅街あわせて100人とのことです。また消防隊による救出活動も依然として継続中であり、今回の事故の原因はいまだ不明とのことです。次のニュースです―――」


 「嫌ねえ、事故なんて」

 

 恵が食後のコーヒーを置きながら呟いた。


 「そうだね。父さんの会社の営業所が事故現場付近だから、心配したよ」


 「大丈夫だったの?」


 「ああ、被害はなかったから」


 「そう、よかった」


 「ごちそうさまでした」


 「お粗末様でした」


 歩美は食べ終わる部屋に戻った。


 宿題を済ませ、お風呂に入ればもう、時間は夜の10時を回っていた。


 歩美は包まるようにベッドに入ると、明日について考える。


 ...へへ、どうしよう、早く会いたいな~...


 あの時を思い出すと、にやけが収まらなかった。


 ...日曜日は、遊園地かな、海それとも、お家デート!!...


 想像がはかどる中、ドアの開く音がした。


 見ると、ベッドの下から茶色い尻尾が見えた。


 「まるちん。おいで」


 そういうと、まるは布団の中に入ってきた。


 腕を出して枕を作りそこに頭を置かせた。


 「まるちん、明日いいことあるよね」


 まるは、ニャーと眠たそうに鳴くと歩美もつられて重い瞳を閉じたのだった。





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