第7話 逃走
バン
隼人は、発砲音と同時に反転し走り出した。ビュン!と言う空気をねじるような音が耳元を通過した。
幸運なことに初手で弾丸は外れてくれた。そのまま通路に入って、何回か角を曲がり、長い廊下を走る。3階には宿泊部屋が陳列しているので、途中に瓦礫や死体が行く手を阻むが、それも飛び越えて炎の世界を駆け抜ける。
ババババババババババババ
銃声が聞こえた。音からしてフルオートだ。
...まじか!...
背後から弾丸がまき散らされるように飛んで来た。必死に逃げるさなか、目の前にT字路画出現した。
...クソ!間に合え...
左手を伸ばし目の前の手すりを使い遠心力を利用して急速に曲がった。
手を離した瞬間に、溜め込まれた力が解き放たれたかのように右側壁に勢いで激突した。右半身を鈍く強烈な痛さが襲った。
「ぐあ!」
それでも隼人は足を止めなかった。後ろからの恐怖から逃れまいと足の回転を速めたのだった。
このままでは、まずいと何か策を弄さなければいずれは追い付かれてしまう。
ふとに前の台車に目が行った。そこにはカジュアルスタイルのマネキンが置かれていた。
....なんでこんなところに?....
この宿は大手商業施設と提携しているため時期によっては自社宣伝の一環として、宿の一部を店頭に広告台を設置しているのだ。
「....そうだ!」
隼人はマネキンかき集めると目の前十字路を中心に角や瓦礫の間に置いていく。特に気が散りそうなところには念入りに置いていく。そして隼人は近くの部屋に身を隠した。
カシャン カシャン カシャン
独特な金属音が聞こえてきた。
「フー...フー」
バン
突然の銃声に体が震えた。恐る恐るドアをそっと開けて隙間から見やると、どうやらマネキンに対して発砲しているようだ。しかもすべての頭部に命中している。
隼人は鼓動を抑えるよう胸に手を当て願った。
...早く行ってくれ...
「・・・」
「!?」
奴の目がこちらに向いた。隼人は直ぐにドアを閉めて部屋を見渡した。今いる部屋は、隼人が止まっていた部屋よりも少し狭いが部屋の配置はほぼ同じだ。隠れられる場所は、クローゼット、トイレ、ベッドなど数は少ない。
「どれにする....どれにする.....」
足音が徐々に近づいてくるにつれて焦りは思考を鈍らせ判断を低下させていく。
そして足音はドアの前で止まった。
...これでいくしかない...
隼人は意を決してその場所に身を隠した。
半壊した頭部から赤い光が発し縦に伸長し扇状に広がった。スキャンモードで生体反応を探る。
スキャンが終了し、すぐさまライフルを上げて部屋中を穴だらけにしていく。ベッドにソファ、その他の家具は破壊され爆音が部屋中に震撼する。銃声が止む頃には部屋中ボロボロになっていた。暗闇に微かに赤く焼けた銃身だけが見えていた
『生体反応なし』
そう言う
しばらくしてベッドの下から這い出てくる影が見えた。
「ぷはっ!」
隼人だ。ベッドの足が壊れたせいでマットレスの下敷きになっていたのだ。ベッドから解放され空気が全身に廻り通る。
....さっきの爆発音のせいで耳が少し遠くなったような気がする...
辺りを見ると部屋穴だらけで、荒れ果てている。あの時、自分に当たってしまうのではないかとヒヤヒヤしたが幸いにもそれはなかった。周囲を警戒しつつ立ち上がり玄関に向かった。
外に奴の影はいない。一刻も早くここから離れなければ、迫りくる火の手は待ってくれない。向かうは正面玄関だ。
隼人は駆け出した。途中頭の中で地図を思い出しながら逃げ道を探していく。
記憶が正しければ近くにまだあれがあったはずだ。
「確かここ曲がれば............あった!」
近くの非常階段を見つけドアを開ける。流石は非常用だ、災害時でも対策は万全なようだ。隼人は階段を降りようとした時に後ろに何かを感じた。
まるで身震いするような感覚。恐る恐る振り返ると、目の前に赤い一つ目が見えた。
「早すぎんだろ!」
隼人は勢いよくドアを閉めて階段を一目散に駆け下りた。
瞬間、ドアに無数の風穴が出来た。
バァン!
後方から爆発音。多分ドアが吹き飛んだのだろう。
だが隼人は気にせず階段を下りる。
2階に到達し、あと少しで1階と言うところで問題が発生した。
それは、階段がそこから先がないのだ。
...何でないんだよ...
仕方なく横のドアを開け2階のフロアに出た。上からの足音を聞いて反射的にドアを閉めた。火の手は上階よりも激しく、ほとんど通れる道は限られていた。
隼人は口元を手で抑えて意を決し進んだ。なるべく、火を遠ざけるために駆け足で逃げ道を探る。火の粉で所々服に穴が開くがそんなこと気にする余裕もない。
...思い当たる下に行く方法は...
横目に赤い印と鉄板が写る。箱型で避難用と書かれたこの器具には見覚えがあった。
「避難用の簡易滑り台か!」
....学校とかでしか見たことしかないけど、これを使えば脱出できる....
そう言って手を伸ばした瞬間、
バァン
目の前でそれが砕け散った。
慌てて音が鳴った方向に目を向け炎の中から黒い人影が現れた。多少よろけながらも銃口をこちらに向けた。
「あぁ、クソ!」
背後からの飛んでくる銃弾を背にして、隼人は逃げた。
服や皮膚に弾がかすり傷みが走る。
どうすればいいんだよと、そう思うと涙が止まらなかった。
その後逃げながら、脱出口を探るが見つけることはできなかった。
走り続けること約5分
体力が限界に近くなってきた。涎が口に溜まり、喉と心臓がバクバクと痛みを発している。
今にも止まりたくなってしまうが体は動いてしまう。生存本能が体力を無視してしまっているのだろう。
それに先ほどからから目眩と気持ち悪さが続いており、足が多少もたついている。
バンバンバン
また後ろから、銃声が聞こえた。
一瞬振り向くと炎の中から黒い影と赤い光が見えた。必死に逃げるもヤツはどこまでも追ってくる。まるでジワジワと恐怖心を煽るかのように。
次の角を右に曲がると、唐突にガンっと鈍い痛みが頭に走った。
「いってぇ!」
隼人は、衝撃で尻餅をついた。何かの角に当たったのだろう。
すぐに立ち上がろうとしたその直後、ある違和感が走った。
...あれ?右手に力が入らない...
感覚はあるのだが立ち上がらうにも、バランスを崩してしまう。
疑問に思った隼人は、視線を右半身に移す。
そこには、なんと右腕の上腕に風穴が空いていたのだ。
「!?」
見た瞬間、隼人は嘔吐間に耐えられず、その場で吐き出してしまった。少し赤みがあり、血が混じっている。いつの間にか服も血で染まっていた。今までパニック状態で気が付かなかったのだ。
隼人は、よろける体を左腕で支えながら立ち上がる。急に止まったせいか疲労感で体がとても重く感じ、精神的なショックも相まってまずい状況だ。呼吸もさっきより、難しくなってきている。
目線を前に向けるとそこには白い壁があった。よく見ると宿に突っ込んできたあの白い物体だった。しかも丁度通路の様に口が開いている。ぶつかったのは、壊れた半開きのドアだ。
後ろはからは死神が迫ってきている。丁度ここは一方通行で逃げる場所ない。ならば、先に進むしかない。
...行ってみるか。いや、行くしかないんだ...
隼人は覚悟を決めて、左腕で右腕の負傷した部位を抑えながら、ドアを避けて先の暗闇の中に入って行った。
中に入り直ぐに右に曲がると奥までまっすぐ通路が続いていた。だがその先は真っ暗で、まるで恐怖心を掻き立てるような暗さだ。幸い床にはサイリウムのような白い棒状の光ががあるため何とかそれを頼りに辿っていくしかない。
...こんなところ歩くなんて家の廊下ぐらいだ...
余談ではあるが、篠崎家の長い廊下は、夜になるとその暗さ不気味さから、知り合いからは「お化け屋敷」などと良く言われている。
隼人の意識は、失血による影響で今にでも気が抜けそうだった。右手からは、血がダラダラとした立っていて、なんとか体を左壁に摺り寄せながら道を辿っていく。
やがて入り口からの光が消え、白く薄い光と一面真っ黒な世界が隼人を満たしていた。
ガクンっと急に壁が斜めになった。バランスを崩さない良いに、ゆっくり進み次は平らになった。そのまま進むと肩に何かが触れた。ボコボコしているが、触った感じだと何か四角形のパネルのような感じのものだ。ペタペタと触れていると、そのパネルが急に光だした。
『識別認証確認。ドアを開きます』
すると、寄りかかっていた壁が直ぐに消え吸い込まれるように体が引っ張られた。
「ぐふぁ!」
受け身の取れないまま倒れたせいか、胸から空気が抜ける感覚がした。
隼人は、ヨロヨロと立ち上がるとそこには真っ暗な世界があった。
シュン
ドアの締まる音に体が一瞬震えた。手で探りながらすり足で少しずつ奥へ奥へと進んでいく。すると手に何かが当たった。探ってみると丸いスイッチのような物だった。周りは壁のような感じでどうやらここが突き当たりみたいだ。。
...なんだこれ?...
隼人は不思議とそれを押してしまった。
すると、壁に一筋の線が走った。中心から壁が上下左右に開いていく。
壁の隙間から、徐々に光が飛び出していく。光が全身を襲うと、隼人は左手で目を覆った。完全に開かれると、光は徐々に明るさを弱めていく。
明るさに少しずつ目が慣れていき、覆っている左手をどけた。
そこには、一面のガラスが広がっていた。中には四角い手のひらサイズの物体があり金色の光を放っていた。中心には白い核のようなものがあり、鼓動するかのように振動している。
隼人は、感動のあまり言葉を失った。温かくて、とても綺麗だった。それでいて輝きにしつこさがない。この場合、神秘的と言う言葉が適しているだろう。LEDの明るさと全く別物だと肌で感じた。痛みを忘れて、神秘的な光体を全身に浴び続けた。
すると急に体から一気に力が抜けた。出血多量によって全身に力が入らなくなってしまったのだ。目の前のガラスにに寄り添いゆっくりと、腰を下ろしす。呼吸も浅くなり、顔がも青白くなっている。
そのさなか、遠くから何かが聞こえた。
カシャン カシャン カシャン
足音のようだった。しかし、これには聞き覚えがある。
...ヤツが来たか...
隼人は直感ですぐに分かった。恐怖心が再度彼を襲う。その足音は、近づくにつれて激しさを増していた。
タン タン タン ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!!!
音からして走っていることが分かった。それもすごい勢いだ。そのまま、離れて行ってくれと心で隼人が強く願った。
だがしかし、最悪なことに足音は、部屋の前でピタッと止まってしまった。
バァン!!!!
瞬間、ドアが勢いよく爆散した。
爆風をもろに浴びた隼人は、体の至る所に破片が刺さってしまった。右腕は吹き飛び、意識もいつ途切れても可笑しくない状態だ。
爆煙の中から、赤い光と人影が見えた。全身真っ黒な体に赤い目。そのロボットは、至る所に被弾したような場所がいくつもある。腹部から配線が垂れて、左肩の接合部はスパークを発している。
...嗚呼、ここまでか。死にたくねえな...
ロボットは、よろけながらも瀕死の隼人に向けて銃を構えた。そして、引き金に指をかけようとした瞬間、不思議なことが起こった。
ロボットの動きが鈍くなり始めたのだ。動きはだんだんと遅くなり、いつの間にか、停止してしまっていた。それに、赤いモノアイも先ほどから不自然に点滅している。すると、ロボットの赤い目が赤から黄色に交互に点滅し最後は完全に黄色に変わった。そして、目の色が消え、力が抜けていくかのように倒れこんだのだ。
隼人は、今の出来事に理解が出来なかった。だが、そんな思考するのもつかの間に自分の中の緊張の糸が切れたのか、眠気と共に意識が遠のいでいくのを感じたのだった。
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