第6話…現在④

「でね、不思議なんですけど…」


次の日。

打ち合わせの後の雑談中に榊原さかきばらさんが話し出した。

私はみんなにコーヒーを出して、何食わぬ顔をして話に加わった。


「え?なんの話ですか?」

「なんかね、榊原さかきばらさんがずっと持ってる宝物の話だって」


社長が言う。


「へぇー、何ですか?」

「これくらいのピンク色の昔からある豚の貯金箱なんですよ、陶器の」

「あー、ありましたね、懐かしいです」


私の頭には、あの貯金箱の映像が浮かんだ。


「それをずっと持ってるんですよ。何回か引っ越しもしたんですが、今も実家にあるんです。それで、この前帰った時に中身を確かめたんです」

「お金じゃなくて?」

「違います、お金じゃないものを入れていた記憶はあったんですが…」

「なんだったんですか?」


クスッと笑いながらの榊原さかきばらさんが答える。


「初恋の人からの手紙でした」

「えっ!可愛いじゃないですか?」

「正確には、手紙をもらったからその子のことを好きになった…んですけどね」

「そうなんですか…いいですね、そういうの。なんかきゅんとします」



少し頭が固い榊原さかきばらさんの初恋の話。

いいなぁ、聞きたいなぁ。

でも。


「そろそろ電車の時間なので、今日はこれで帰りますね」

「はい、お疲れ様でした」

「また、次回もお願いしますね」

「仕事を進めておいてくださいね」


次回来社日を決めて、榊原さかきばらさんは帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る