2月

2/1~2/10

1日


綺麗なドレスなんて、とても着れるわけがないから。自分で作ることにしたの。かわいい生地を自分で選んで、針を通すときは息を止めて。丁寧に丁寧に、命を注いであげる。焦りは禁物だからね。

やがて完成して、袖を通す。うん、ぴったりだ。

舞踏会がないのが残念だ。こんな美少女を逃すなんて……ね?


「針子の独り言」




2日


元気のない君に、魔法をかけよう。君が「魔法の手だね」と言ってくれた、この両の手で。

君の今食べたいものは何?「……カヌレかな」任せてよ。それなら作ったことがある。

君のことを思って作るよ。これは君のためだけに作ったから、他のやつはお断り。

出来立てを出すと、笑う君。魔法は成功だ!!


「美味しい魔法」




3日


嫌いなアイツが文を書き始めたらしい。だったら俺も。アイツは賞を取った。俺は一次の時点で落とされた。

どうしてアイツには出来て、俺には出来ないんだよ。アイツに出来るくらいなんだから俺にも出来るだろ。なぁ、何で出来ないんだよ、あんな簡単なことが。

俺はただ、アイツに勝ちたいだけなのに。


「俺にも出来るはず」




4日


「貴方の世界を滅ぼしておきました」

突然、目の前に現れた女神がそう言った。しかしそれはおかしい。俺は普通にいるし、俺の住む町は普通に営みを繰り返している。……まさか。俺はスマホを手に取った。

震える手で操作をする。俺の書いた小説が、全て消え去っていた。なんてことを、俺の世界が……!


「貴方の世界」




5日


海に入って、クラゲになる。ぷかぷか浮かんで、何も考えない。

クラゲは気楽だ。ただ浮いているだけでいい。

しかも、知ってる?クラゲは不死身なんだよ。体の一部が失くなっても、自己再生できる。しかも、体を若返ることができるんだ。

だから、今日の私はクラゲ。今日の私は無敵なんだぞ。ふふふ。


「無敵クラゲ」




6日


君の声や感情で、ひとりオーケストラ。君の笑い声は素敵なラッパ。君の楽しい気持ちはパーカッション。時には悲しい気持ちになるときもある。でもね、そんな気持ちもサックスに。綺麗な音楽に変えてしまうんだ。

私はそんな君の演奏を、横で聴いているのが好き。皆、気づいてない。ここが私の特等席。


「ひとりオーケストラ」




7日


ふと顔を上げて、ここはどこだろう、と思った。どうやらスマホに夢中になりすぎたせいで、降りる駅を逃してしまったらしい。スマホ依存症なのを治せって、親にも言われたのに。はあ、正直に話したら怒られるよなぁ。言い訳考えないと。今こういう事情なんだけど、言い訳募集、というのを、SNSで呟く。


「手放せない」



8日


この世界が大嫌い。だからあたし、貴方にUFOで連れ出してもらったの。

星がキラキラ。あたしたちの居たあの青い星が、あんなに小さいわ。もう星と変わらないね。

この広い宇宙に、あたしと貴方が幸せに過ごせる場所があるかしら?きっとあるよ、貴方は答える。

そうよね、宇宙はこんなに広いんだもの。


「この広い宇宙に出て」




9日


拾った犬が、ただの犬じゃなかった。漫画や小説のタイトルじゃない。現実の話だ。

だってこの俺が、自分以外のために行動するようになったんだ。餌もトイレも家も色々用意し、休日は積極的に外に出る。同じく犬を飼っている人と友達になった。

こんなに俺の人生変えて……お前、ただの犬じゃないだろ。


「ただの犬じゃない。俺にとっては」




10日


私と彼は秘密の関係。仕事中だからこそ、内緒のアイコンタクト。私と彼にだけ伝わるメッセージ。それを交わし合って。私たちの絆はとても強固。誰にも邪魔出来ない、邪魔させない。解くことなんてもってのほか。私たちは最高のパートナーだもの。

「さあ、今日も契約を取りに行くわよ」

「はい、先輩」


「最高のパートナー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る