第2話

 男は男女平等について、男も女も同じように扱うことと勘違いしている。

 それは違う。男も女も体の作りが違うのだ。そして文化も違う。

 だから同じように扱ってはいけない。

 平等とはスタートラインを同じにしてから始まる。

 もしそれで女性が優位に立っているとか思われても、それは違う。勘違いだ。そこからが平等だ。忘れないでいただきたい。

 けれど、未だに男女平等を勘違いする男が多いのが現実。

 そして私の旦那もまたその勘違いする男の一人であった。

「仕事のみならず、休日にゆっくりできず、力仕事もさせられるとは」

 自分は十分に手を貸していると言わんばかりに彼はアピールする。

 ちなみに今、彼が運んだのは電子レンジ。前の電子レンジが壊れたので、今日、家電量販店で新しい電子レンジを買ったのだ。

「妊婦にちから仕事をしろと?」

「そうは言ってないだろ?」

「男は女と違って力仕事ばっか疲れるんだよ。分かってくれよ」

「分かってくれは私のセリフよ。今は少しでも手伝ってよ。お願いだから」

 その私の願いに彼は大きく息を吐く。

「いいよな。お前は女で」


  ◯


 テレビでたまたま番組内でダメおっとについての話をしていた。

「育休って甘えだよな」

 彼はテレビ画面を見つつ、ぽつりと言う。

「え?」

「俺、思うんだよね。ダメ夫っていうなら、育児の先輩を使えばいいんじゃないかってさ」

「誰? その育児の先輩って? まさかベビーシッターとか言わないよね」

「親だよ。親を呼べばいいじゃん。……って、そうだ! うちもさ、親を呼べばいいんじゃない?」

 なぜか良案だろというつらをする旦那。イラッときたので、

「ああ! の親ね」

「俺の親だよ」

「なんでよ」

「普通に考えたらこっちだろう。お前もウチの姓を使ってるんだし」

「何よそれ。夫婦別姓にする?」

「なんでだよ。めんどくさい。別姓にする意味あるか。一つでいいんだよ一つで」

「ならウチの姓に変える」

「もうなんでだよ。常識で考えてくれよ。結婚したら女は男の姓に変えるんだよ。な? 常識だろ」

「それ古いから。今は夫婦別姓も当たり前」

「古い? 古いから何? 古かろうが正しいものは正しい。そうだろ?」

「だから何でそっちが正しいになるのよ」

「前から正しいだろ」

 私は頭を抱えた。いきなり変な方向から頭を殴られた気分だ。

「ねえ、私そんなにわがままなこと言ってる? 私、妊娠しているの。お腹に赤ちゃんがいるの。初めての妊娠なの。それに双子。不安なのよ。だからそばにいて色々と手伝って欲しいの」

 そう。一番は一緒にいて欲しいのだ。独りは嫌なのだ。家事に対しては頼りにならないけど、それでも話し相手にもなるし、いざというとき重たい物を持つ男手が必要でもある。

 だから居て困るわけではないのだ。

「わがままとは言わない。でもな、少し甘え過ぎだ」

 彼は私を諭すように言う。

 分かってよ馬鹿。


  ◯


 最近、彼の様子がおかしい。

 あれから育休のことは要求していなし、なんならお義母さんを呼んでも良いと告げた。

 双子のためだ。命に比べたらそれくらい我慢しなければ。

 けれど、どうしてか彼の様子がおかしい。

 具体的に何がおかしいかというと、今日も夕食を作り、待っていたのだが、『今日は飯いらないと』とメッセージがきた。

 ここ最近それが多い。

 問いただしても、彼は仕事が立て込んでてと言うだけ。

 さらに会話が減った。

 育休の件で拗ねたわけではない。もし拗ねるというなら私の方だし。

 こちらから会話をしても反応はそっけない。

 では、どうしてか?

 いつの間にか私が彼に対して負担になるようなことを言ったのだろうか。

 いや、そんなことはないはず。

 そんなに仕事が忙しいのか?


  ◯


 そんな疑問はある日、唐突に解けた。

 彼は不倫をしていた。

 最初は香水の匂いだった。妊娠すると匂いに敏感になり、妊娠前だと気づきにくいものでも、ほんの少しの匂いでも今の私には気づく。そしてその香水の匂いはどこか記憶に引っかかっていた。

 その時は結局、思い出せず、仕方なしに彼に問い詰めると、彼は接待でキャバクラに行ったときに着いたのだと言う。

 でも、彼は接待をする営業部ではない。

「営業部でなくても関連のあった下請けやら、会社の上司との付き合いでキャバクラに行ったりするもんだよ」


 次に彼のシャツに口紅がついていた。

 これもまた彼はキャバクラだと言う。

「妻が妊娠しているの女の匂いプンプン身に付けてくるのはどうなのよ。前に言ったよね、匂いに敏感だからって」

「気をつけるよ」

 その匂いは彼の服だけでなく、車内でも充満していた。

「ちょっと香水臭いんだけど」

「香水落としたんだよ」

「何で香水落とすのよ」

「この前、ゴルフの接待で車を使ったろ。その時、秘書の子が落としてさ」

 と彼は笑った。その笑いが誤魔化すものだと私は感じた。

 またある日、彼の上着のポケットからピアスがあった。

「これは?」

「え? ああ、それは落ちてて、……会社に。で、拾ったんだよ」

 慌てて作ったいいわけ。

 そしてとうとう疑惑を確信にするものを見つけた。

 それはスタンプ帳だった。

 休日、彼とスーパーに出かけ、その帰りに。夕日が眩しくて私は車内のサンバイザーを下げた。その時、サンバイザーに挟まれていた紙切れがぽたりと私の太ももの上に落ちた。何だと思って拾うとそれはラブホのスタンプ帳であった。

 彼は運転で私が拾ったことに気付いてなかった。いや、もしかしたらそんなところにスタンプ帳が挟まっていることにも知らなかっただろう。

 スタンプに小さく日付もされていて私は彼が飯をいらないとメッセージを送った日と照らし合わせた。

 不倫確定。

 有罪。

 ただ、そのスタンプ帳は最初にスタンプが押されたのが半年前からだった。

 半年前。妊娠発覚の頃だ。

 そしてそれは夕食はいらないと言い始めたずっと前からである。

 真実を知るために私は彼のスマホを盗み見することにした。彼のスマホはロックされているので、彼が寝ている間に指紋認証でロックを解除。

 そしてメッセージルームを確認。

 どうか不倫ではないようにと無意味に願った。

 ここまであって白は今更ないだろう。

 それでも私は彼を信じた。

 いや、信じたい。

 でも、残念なことにメッセージルームには不倫のやりとりがなまめかしく綴られていた。

 彼は黒だった。

 そして不倫相手の名前も判明。相手はあの佐々木菜々緒だった。

 私は寿退社する前は彼と同じ会社に務めていた。

 佐々木菜々緒は社内で有名な悪女だった。

 見てくれは良いが内面は最悪の泥棒猫で人の不幸を糧にして生きているクズだ。

 一体何人のカップルを不幸にしてきたことか。

 まさかその悪女が大輔を狙うとは驚きだ。

 どうすべきか?

 直接彼に言うべきか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る