File No.25:トクサツ戦士・史上最大の危機!!

 ……あたし達がサースマリン海底洞窟の深海神殿を潜水艦で向かってからどれくらい経ったのかしら。


 ――あたしとルリナちゃんとフィーリアとでガールズトークで艦内に花を添え……(タケルは知らん)


 ――ジャックスはプロフェッサー・ファントムとの麻雀でベクター大佐を出し抜いている。

「字牌の単騎とかおかしいだろジジイ!!」


 そして作者の慶は他作品に意欲を燃やして、トク転の事は後回し!!


「人聞きの悪いこと言うな! 作者にも都合ってもんがあるんじゃ!!」


 そんな茶番も海底の脅威も乗り越えて……あたし達の乗っている潜水艦『マリントルネード号』の動きが止まる。若干浮上している感覚から見ると、洞窟の中を入って神殿の前に辿り着いたようだった。


「……よし、皆着いたぞ! サースマリン海底洞窟の神殿だ!!」

 タケルが停船を確認したところで皆に号令をかける。


「えー、あたしまだようかん食べてないわよ!」

「せっかく緑茶立ててたのに……」

「あっ見て! 茶柱立ってる!!」


「和のお茶会してんじゃねぇよ! はよ出るぞ!!」


 ぶー、せっかく緑茶と綺麗な着物着たルリナちゃんを御手前頂戴しようと思ったのに! あとフィーリア茶柱とか運良いわね。

 因みに前回洋風だったのに和風にしたのは更新ブランク空いて退屈したから、ってのは内緒ね。


 潜水艦のてっぺんの乗り込み口をパカッと開けると、海底の筈なのに何一つ苦労せず空気が吸えている。

 恐らく洞窟を覆う岩壁が相当厚いのと、空洞になっている空間が広いから酸素も蓄えられているのだろう。それに……


「うわぁ……!!」


 海底から150マイルの深い洞窟にこんな神秘的な神殿が広がっていたとは……!!


「……こう言うのってアトランティスとかムー見たいな古代文明が作ったのかしら?」

 あたしも特撮好きだから古代文明とか歴史の事には意外にも興味があるの。でも作者は深い話が知らないらしいからこれ以上は言わない。



「元々ブレイドピアと英雄との関係が数千万年の歴史があるからな。アトランティスと同等……いや、もしかしたらそれよりも前の話になるかも知れないな」


 へー、タケルもこの世界の住民だから詳しいのね……って!? そんな長い間から英雄って居たの!


「悪の化身によって英雄が封印されたのが数年前。だけどそれよりも前に、何らかの理由で封印された英雄もこの世界には数多く居るんだ。――例えばこんな洞窟で身を隠していたりしてな!」


 ……ん? それってずっと前から封印したまんまの英雄も居るってこと?

 とするとそれは力が強大な故にとか、使い物にならないとか、色んな説が出てきそうね。

 でもこの海底洞窟からはそういった英雄が長いこと眠っていたりするのかしら……?


「タケルきゅん♡︎! 追っ手が来ないうちに早く神殿の中に入りましょうよ!!」

 フィーリアが痺れを切らせて扉の前でタケルを呼び掛ける。……ってか許嫁だからって普通に名前呼べないのか。


「おぉ、直ぐ行く!!」

 あたしとタケルも神殿の巨大な扉の前に向かうと、扉に大きな文字が刻まれていた。



 ≪英雄の力を宿りし者へ、神殿に眠る宝玉を手に親子の力を授からん≫


「……何の意味でしょうか? って……」

 ルリナちゃんも首を傾げながら疑問に思う。でもその答えは神殿の中に入らないと分からない。


「とにかく入ってみないと……あれ?」


 ところがあたしが大きな扉を力を入れて押してみたが全然びくともしない。


「焦れったいわね! だったら力ずくでも……」

「ダメダメダメダメ! 大事な遺跡を壊すんじゃない!!」

「あ、そうだった。ごめんなたい☆」

 全く……恋するチート人間フィーリアを扱えるのはタケルだけよ。あたしには無理!


「だったらこれよ!『トクサツール・都合良く開けちゃいます鍵』ーー!!」


 あたしはトクサツールベルトから巨大な鍵を生み出した。決して車の懸賞で出てくる張りぼてのでっかい鍵じゃないよ!


「はい、ガチャンっと!」

 神殿の扉に鍵をタッチさせて、クルリと一回転すると……


 ゴゴゴゴゴゴ……!!


 はいこの通り、セキュリティ解除!! 御都合展開って便利だなー☆


「よーしこのまま進むぞ!」

 タケルが偉そうにあたし達に指令をかけて進もうとした、その時!!


「見つけたぞ、トクサツ少女!!」


 はっ!? 貴様は誰だ!!?(イケボ)


 マリントルネード号の隣に、黒々とした物騒な攻撃型潜水艦が仲良く停船している。

 そこから戦闘員達がぞろぞろ現れて、終いに出てきたのが……おっさんとジジイ!


 ベクター大佐とプロフェッサー・ファントム!! 大幹部二人が初めてあたしと合間見えた!!!


「出たなジャックス!!」

 ……何でタケルがヒーローっぽく啖呵切ってるのよ! それはあたしの仕事!!

 それにフィーリアも群がる戦闘員を前に既に臨戦体制を取っている。


「……貴方もしかして、ジャックスの幹部って奴じゃないの!?」


「いかにも、私は泣く子も黙る独眼の竜・ベクター大佐なのだ!!」

「そして隣のハイカラジジイは天才博士のプロフェッサー・ファントムだよ~~ん!!」


 もぅ~何なのよこんな時に! それにあの幹部達も真面目とおふざけがミックスしてカオスな感じになってるわよ!!



「……我がジャックスの敵、トクサツ少女ヒロミよ。私達が直々に現れたということが何を意味するのか分かるか?――この海底洞窟が、貴様の墓場になる所を特と拝見しようという訳だ!!!」


「何ですって?」


「ニェヘヘ! ベクター大佐殿は毎度毎度怪人を倒される度に、姉ちゃん同士でイチャイチャしてるのを見るのが癪らしくてのぅ! だからこーしてワシの力を借りてここまで来たのじゃ!!」


 姉ちゃん同士でイチャイチャ……?って!!


「あ゛ーーー!! もしかしてあたしの家にカメラ仕掛けたのはあんたね、ベクター大佐!!!」

「ほほぅ中々勘が良いな小娘。だが気付いた所でお前の行動は全てお見通……」


「あたしとルリナちゃんのにゃんにゃん見るのがそんなに面白いの!? この変態!! スケベ!!! 盗撮おっさん!!!!」

「人の話は聞け! それに盗撮ではない、敵の監視だ!!」

「おっさんに百合なんか見せないもんねーー!! 読者サービスの一環だかんねーー!!!」


 端から聞いてたタケルとフィーリアも「言ってない言ってない」「あとメタいわよ」と無言リアクションで訴えるが、あたしの怒りはもうてっぺんまでたぎっていた。


「むきーーーッッ!! こうなったらトクサツ変身で皆やっつけちゃうんだから!!!」


 あたしは腰のベルトを露にして、変身の構えを取る。

 皆様大変長らくお待たせしました! トクサツ戦士の変身ですッ!!


「クルックル~♪ シャキーン!!」


(……ニヤリ)

 ……あれ? 何かファントムじいちゃんがあたしが変身の構えを取るなり微かに笑みを浮かべたような。ま、いっか。


「――巻~き毛クルクル!

 ――わ~たあめクルクル~♪


 ――クルリと回って……トクサツ変身へ~んしんッッ!!」


 掛け声が終わったと同時にベルト中央のシャッターが開き、虹色の結晶『トクサツールコア』が現れた!!


「……そ~~れッッ!!!!」


 ――ギュビビビビビビィィィィィン!!!!!


(ナレさん)トクサツ少女・石ケ谷ヒロミは、変身ポーズでベルトの『トクサツールコア』にエネルギーを溜めることによって、【トクサツ戦士・HIROMI】に変身す…………



「今じゃッッ!!!!!」

「!!?」


 あたしが変身で大ジャンプからの空中一回転をしようとしたその時。

 プロフェッサー・ファントムはあたし目掛けてカプセルのようなものを投げつけたと同時に、そのカプセルが大きくなってあたしを包み込んだ!!


『な、何よこれ!?』


 空中にて、真っ黒で半透明なカプセルに閉じ込められたあたしは、トクサツ戦士HIROMIヒロミの状態から声を籠らせながら身動きが取れなくなっていた。


「……せぇいッッ!!!」


 ――ガキンッ!!


 あたしの渾身のパンチやキックをもっても、カプセルは硬く鈍い音を立てながらもヒビ一つ入らない。更にヤバい事がもう一つ……


『お前、良い歳してまだヒーローもんとか観てんのか!? だっせぇ~!』


「!!!?」


『女の子でしょ? 今時ヒーローとか恥ずかしくないのキモッ!!』

『触んな幼稚なのが移るわバーカ!!』


 カプセルの中からあたしの耳元にダイレクトに響き渡る誹謗中傷ひぼうちゅうしょうの嵐。これがあたしの心臓が喉から弾き出るような嫌な感覚が身体全体を襲う。


 しかもこの感覚は今日初めて聞いたような声ではない。


 この感覚、《《転生前にも味わったことがあるような》》……!?


(や、止めて……止めて、止めてッッ!!!!)


 この暴言の数々は終いに全ての五感を拒否する程に精神的なダメージを与えていく。


「……どうかね? ワシの開発した『イマジネーション封殺カプセル』の威力は!?


 トクサツ戦士を倒すのに暴力は要らない、人間は皆を壊せば、自然と自分から身を滅ぼすように出来ているのじゃ!! このままトラウマに溺れて沈むがいいわい、ニェァハハハハハハハハッッ!!!!」


 プロフェッサー・ファントムは狂気に駆られながら高らかに笑う。そして、私は……



(……だ、ダメ……身体の力が、全部、抜けて……いく…………)

 


(ナレさん)トクサツ戦士のエネルギーは永久的に続くものではない。ヒロミのイマジネーションを原動力とするパワーにも限度がある。


 彼女の楽観的な性格がイマジネーションの力を宿し無限大の力を生み出すのだが。先程のイマジネーション封殺カプセルに閉じ込められ、自分の存在と趣味嗜好を否定する罵詈雑言によって精神ダメージを与えることで、イマジネーションの力が発揮できなくなる。

 心を傷つけられたヒロミのエネルギーは、みるみると失われていくのだ……!!



 ナレさんの深刻なナレーションが終わったと同時に、あたしはエネルギーの限界に達して尻切れトンボのように倒れる。


 ――――シュゥゥゥゥゥゥン……!!


 意識を失ったあたしは砂に溶けていくようにトクサツ戦士の変身も解除された……!!


「「ヒロミッッ!!!!!」」


 戦闘員と相対するタケルとフィーリアが、あたしが倒れたのを見て必死に呼び掛ける。

 でもあたしは、音も何も見えない闇のなかに眠るように、自問自答を繰り返す。




 (あたしは、何のためにこの世界に生きてるの――――?)

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