File No.24:トクサツ戦士の弱点……!?
――ブロロロロ……
喫茶店『リリィ』の玄関から、オートバイが停まるエンジン音が聞こえる。
W.I.N.D印のセミカウル型オフロードバイク『ウィンドサイクラー』だ。と言うことは。
……なーんだ、タケルか。
「『なーんだ』じゃねぇよ! 非常事態だからこうしてお前ん家に直で来てやったんだ。入るぞ!!」
カランカランとベルが鳴る間もなく、バタンと喫茶店のドアを乱暴に開けるタケル。人ん家壊さないでよ?
「ヒロミ、大変だ! 新しい英雄の居場所、が…………」
……何よタケル、出会って早々にポカーンとした顔しちゃって。
――正面の壁にぽっかりと大穴が空いて。
――その大穴の側の床に、カメラみたいな機械の破片が落ちていて。
――ルリナちゃんの頭に猫耳バンド付けてにゃんにゃんタイムしてた最中の状況が、そんなにシュールなんですかッッ!?
別に家にジャックスの監視カメラが見つかったから、トクサツール・ロケットパンチでカメラごと壁をぶっ壊した訳じゃないからね!?
「いやもう言ってるよね?」
「あたしのプライベート覗かれたぁ~~!!」
あたしがプライバシー侵害で、にゃんにゃんから転じてワンワン大泣きする状況では流石のタケルも掛ける言葉は見つかるわけが無かった。
「……ま、まぁ、心中察するぜ。そんな事より大変なんだ! 新しい英雄の居場所が――」
「そんな事より!? あんた女の子の生活を覗かれるのがどんなに辛いか分かってんの!!?」
「ちょ、ヒロミさん落ち着いて!!」
あんまりあたしも人に怒ったことが無いけど、今回ばかりはデリカシーの無いタケルに鬼の如く怒号を浴びせる。
「悪かった、悪かったてば! 謝るからとにかく本部基地まで一緒に来てくれ!!」
★☆★☆★☆
――W.I.N.D本部基地。
サブロー総司令官があたしとルリナちゃんを呼び掛け、今回の英雄確保の為の作戦会議が開かれた。勿論タケルとフィーリアも一緒だ。
「諸君、今回の英雄の反応を察知したのは本部より約900キロ。南の方角に位置する南海『サースマリン海底』150マイルの深海にある海底洞窟だ。
前回の密林の英雄封印の遺跡同様に、今回もヒロミ君達の力を借りて直ちに救出に向かうのだ!!」
「「「はっ!!!」」」
総隊員敬礼。今回もあたし達と協力して任務に遂行することになったは良いけれど、海底深くまでどうやって行くのかしら。ちょっとフィーリアに聞いてみよう。
「……ねぇフィーリア、あんたサースマリン地方の隊員だったんでしょ? 海底洞窟の事とか行き方は検討ついてるんでしょうね?」
「勿論よ、彼処もこの世界の英雄の封印の地として有名なんですもの。無論行き方も抜かりは無いわ」
その詳細もサブロー総司令官が詳しく説明してくれた。
「さて潜入方法なんだが、今回は我が組織の巡洋型潜水艦『マリントルネード号』を使って海底洞窟へ潜入する。乗船隊員はタケルとフィーリア、その他艦隊員4名でヒロミ達をカバーしろ」
「「了解!!」」
「出動用意!!!」
サブロー総司令官の号令により、隊員達は迅速にてきぱきと潜水艦『マリントルネード号』の発進へ準備を進める。本部基地の地下150メートルに設置するマリントルネード号が、今か今かと発進に備えて満水のプールに浸かっている。
あたし達はそのプールの上に、ポツンと顔を出している乗り組み口から順々に乗り組んだ。
「うわぁ……!」
あたしは潜水艦の内部なんか特撮でしか見たことが無かったけど、W.I.N.Dの潜水艦も中々格好いいじゃない! 近未来的なオーバーテクノロジーを張り巡らす構造にあたしの興奮も抑えきれるかどうか。そんな高揚を見せる間もなく……
「マリントルネード号、発進!!」
海中の正面ゲートが左右に開き始めたと同時に、一旦潜水艦は30メートル程更に沈み始め、前方ゲートへと進み始める。
湾岸に隣接する本部基地から南に進む潜水艦は、そのまま150マイルの深さで、やや真上に地上の光の木漏れ日が見えるか否かの暗さで静かに進んでいく。
(待ってなさい英雄ちゃん! このあたしが救いだしてあげるんだから!!)
★☆★☆★☆
一方、ジャックスの方はというと……?
「……プロフェッサー・ファントム、これがトクサツ戦士の主なデータだ」
ひぇ~恥ずかしい。あたしのトクサツ戦士のスーツを、ジャックスが許可なしにデータにして分析してたなんて!
こーゆーのは特撮テレビ番組の雑誌でないと公表しちゃいけないのよ! ……あ、でもその雑誌この世界に無いんだっけ。
「トクサツ戦士HIROMIのエネルギーの元は、腰のベルトに設置されてある『トクサツールコア』にある。元々キューブ型であったトクサツールを、英雄封印の解放によって姿を変えたのがこのコアだ。
その威力は未知数、使用する彼女の想像力によって繰り出す技や武器を自由自在に操るのが特徴的だ」
う~ん、敵ながらこんなに細かにあたしの事を分析して説明してくれると照れちゃうなぁ!
……はっ、そんな事をいってる場合じゃ無いわ! ベクター大佐め、このデータを元にファントムじいちゃんに弱点を掴もうとしてるんだな!
すると、ファントムじいちゃんはデータ資料に目を通すことなく結論を下した。
「そんな資料など見ずとも、この天才のわしには既に弱点は掴めているわい!!」
「なんと!? してその弱点は――?」
「トクサツ戦士の弱点は、【想像力を働かせる思考を完全にストップさせる】じゃ!!」
「やはり想像力を……?」
「その通り、元々彼女の持つ『トクサツールコア』は自身の想像力、即ちイマジネーションの力によって無限大の力を発揮する。となれば対処は簡単な事じゃ。
そのHIROMIちゃんが『あれをしたい』『これをやりたい』と思う想像力を、現実を見させて弱らせてやるのじゃ!!」
……何か結構難しい話になってるけど、あのファントムじいちゃん既にあたしの事がお見通しのように見えるのよね。プルルル……そう考えると何か身震いがしてきたわ!
「……何の事かはさっぱり分からんが、それでホントにトクサツ戦士を倒せるんだな!?」
「モチのロンさね! このわしが開発したカプセルを放り込めば、ばっちし!!」
すると一人の戦闘員が、ベクター大佐の部屋に報告に参る。
「W.I.N.Dの潜水艦らしきものが、サースマリン海底の洞窟への進行しております!!」
「ニェヘ! 奴等も場所を把握したらしい、これで手間も省けるわな! さ、我々も潜水艦で後から付いていこう!!」
「よし!ならば私も同行しよう!!この目でトクサツ戦士の最期を見届けてやるわ!!!」
えぇ~!? ベクター大佐も付いていくの!?
おっさんとじいちゃんが意気揚々と、ジャックスの攻撃型潜水艦に乗り込んでいく。悪の組織らしく戦闘員達も数名お供のおまけ付き。
「ククク……これでトクサツ戦士を倒せる! 長年待ったチャンスだぞ~☆」
「長年はオーバーじゃないかね、ベクター大佐殿? さぁ行くぞーー!!」
こうしてジャックスも、あたし達の後を追うように潜水発進するのだった。
★☆★☆★☆
――マリントルネード号。
「ヒロミ、貴方こないだ『
「あたしにも分かんないのよフィーリア! 無意識にやったら勝っちゃったってだけで……」
「皆さ~ん、アップルパイと紅茶出来ましたよ~♡︎」
(英雄が発見される重大な時に、何を呑気にお茶会してるんだアイツらは……!!!)
★☆★☆★☆
――ジャックスのむっちゃ兵器積んでて危ない潜水艦。
「どーもわしんとこの戦闘員は麻雀に弱くてのぅ! ベクター大佐も少しは骨のあるとこ見せて欲しいもんじゃ!! (役牌ジャラジャラ)」
「いや、私も麻雀には若干疎くて……だがやるからには真剣勝負で――――」
「ツモ、大三元、役満じゃ」
「初手からイカサマしてんじゃねぇよ!!!!!」
……正義のお茶会と、悪の麻雀。
呑気な時間を潰しながら、数キロ距離を離しながら2つの潜水艦は深海を突き進む。
――目的地まで残り約250キロ。舞台はサースマリン海底洞窟、深海の神殿へ……!!
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